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   『じいちゃんを救え! 白ねずみチュー太の大冒険』

         投稿者 : イネ


 おじいさんの膝の上でチュー太が、あーん、と待っていると殻を割ったピーナッツが飛び込んできました。前歯でがじがじくだいて、うんうん、旨い、旨い。また、あーん、としていると今度はおしるこのふーふーと冷ましたあずきが飛び込んできて、うひひ、甘い、甘い。食べ飽きるまで催促してお腹がぱんぱんになると、よっこらしょ、とおじいさんの肩に飛び移り、イチ、ニ、イチ、ニ、と肩を揉みほぐして、美味しいご飯の代わりにその疲れをいやしてあげます。
「チュー太や、いつもありがとさん。ずっとそばに居ておくれ」
 夕食後のいつものセリフを言って、おじいさんはチュー太を手のひらに移し背中をなでてやります。チュー太はしっぽの先をくるくるさせながらおねだりしました。
「今日はなにして遊んでくれる?」
「さて、なにしようかの」
 チュー太は待ちきれずに手のひらから跳び降り、畳をしゅっしゅと駆けて、片隅に置かれた将棋盤の上でくるりと宙返りしました。
「ああ、そうかい。今日も将棋かい。ほんとにチュー太は将棋が好きじゃなあ」
 立ち上がったおじいさんがチュー太が乗ったままの盤を部屋の中央にセットします。それから腰を下ろし、盤に乗ったまま駒を動かすチュー太と一時間も二時間もにらめっくらして熱戦をくり広げます。
 チュー太がひっくり返った鎌みたいにヒゲを張りました。
「もう一回するっ」
「はっはっは。チュー太は負けず嫌いじゃなあ。そら、この駒を動かしたほうがよかったじゃろ」
 チュー太は前歯をむきだしました。
「じいちゃん、助言なんかいらないやい」
 そう言ってうつぶせになり両手両足をバタつかせ、駒をあっちこっちにはじき飛ばしました。そうして「これっ、チュー太や」と怒られる前に、おじいさんのよれよれの胸ポケットにもぐり込んで泣きじゃくります。
「じいちゃんは今日も手加減してくれなかった。将棋を教えてくれた頃は負けもしてくれたのに」
 むせ返り、顔を覆った指の隙間からおじいさんをうかがいます。
 おじいさんもその隙間に向かってにっと笑いかけます。
「チュー太は将棋ができるのだけでもすごいぞ。あんまり賢いからついわしも力が入ってしまうのじゃ。ちと厳しすぎたかの」
 チュー太は鼻をすすり、びしょびしょの瞳でおじいさんを見つめます。やがて顔だけをポケットから出しプイッとしてつぶやきます。
「じゃあ、なでなで」
 おじいさんはひと差し指でその額をなでてやります。いつものことですがなでているとチュー太はすぐ眠くなってしまいます。
「チュー太、もう寝たのかね」
「うんん、寝てないやい」
 言い返しますがチュー太は目を開けていられません。無理に開けていようとするので丸い目玉がぐるんとなって白目をむきます。おじいさんはしばらく見守ってからまた声を掛けます。
「よし、もう寝たね、お布団行こうかい」
「うんん、寝てないやい」
 ひっくり返った目に加え、すべてのひげが噴水の先の水のように垂れ下がっています。それを真上から見ているおじいさんには、目に入れたいぐらい可愛くてたまりません。見届けたあとでそっと布団に寝かしてやります。その後静かになった畳の上で夜通し、わらじ作りに取りかかります。
 明け方になりチュー太は小鳥のさえずりとともに目を覚ましました。
「あれ、じいちゃんがいない」
 しょぼしょぼした目をこすると、おじいさんはわらじに埋もれて眠っていました。いつもと様子がちがいます。――大変だっ!
 肩を揺すると、おじいさんは赤らんだ顔でうーうー呻きました。
「どうしたの、じいちゃん」
 額に手を当てて熱いのをたしかめながら呼びかけました。
「うぅ、少し具合が悪いようじゃ。すまんが隣の村長さん家に行って薬をもらってきておくれ」
 おじいさんはやっと顔を持ち上げてつぶやきました。
「分かった。すぐ行くから横になっててね」
 ふらふらした体が布団に横たわるのを見届けるや、チュー太はパカパカ開く扉をくぐり、村長の家へとまっしぐらに走りつづけました。
『じいちゃんを死なせなんかするもんか』
 村長さんの家の柱をよじ登って呼び鈴を押しても誰も出てきません。それでも押しつづけていると、家の脇からぬっと女の子の犬があらわれました。
「あっ、リリーちゃん、村長さんは?」
「パパ? うちのパパは隣町に出掛けたわよ。わたし一人でお留守番。真っ青になってどうしたの?」
 チュー太はおじいさんの具合を早口で伝えました。
「そっか、パパ居ないしなあ。それってもしかしたら裏山のダムに生えているキノコを食べさせればいいんじゃないかな。前にママが熱を出したときにパパがそうしてたよ」
「じゃあ、一緒に行くの手伝ってよ」
「チューくんのお願いじゃ、断れないなあ。よし、背中に乗って」
 チュー太はもじゃもじゃした体によじ登りしがみつきました。それから、うん、いいよ、と言い、走り出したリリーに尋ねました。
「そのキノコってどんななの? 何色してる?」
「形は分かんないけど虹色のキノコだよ。それを食べるとどんな病気も治っちゃうの」
「虹色かあ。見つかればいいけど。いや、絶対見つけないと」
 これを聞いたリリーはスピードを上げました。チュー太は振り落とされないようにぎゅっと綿毛の背中をつかんでいます。
「平気? 痛くない?」
「うん、痛くない」
 森に入った獣道を軽快に駆けていきます。チュー太は以前にしたお馬さんごっこで、おじいさんが息を切らしていたのを思い出しました。
「そんなに走って大丈夫?」
「うん、わたしの本当のパパとママが昔特訓してくれたから大丈夫よ。へへん」
 リリーは鼻を鳴らしました。
「そっか、リリーちゃんのおじさんとおばさんも凄いんだね」
 こう返しながらもチュー太は内心でしょんぼりしていました。
 チュー太の記憶にはおじいさんがいるばかりで本当のパパとママはいません。小さい頃、気がついたときにはおじいさんの手のひらの中にいました。家の庭の隅っこで仰向けに倒れていたとのことです。
(パパとママの顔なんて知らないし温もりも覚えてないやあ)
 チュー太はひげをぴんとさせて頭をぶるぶるしました。今はなにより虹色のキノコを手に入れなければなりません。そのためにリリーも走ってくれているのです。
「あの川を越えたらもうすぐよ」
 荒い息の隙間から声がひびいてきました。
「うん、うん」
 ですが茂みを抜けて川に着いてみると、あるはずの橋が見当たりません。先日の台風で流されてしまっていたのです。
「あちゃー、橋がない」
「ねえ、リリーちゃん、犬かきとかできないの?」
 リリーは急にもじもじしました。
「うーん、走るのは得意だけど泳ぐのはまだ練習中なの。へへ」
 二匹はざーっと流れる川の前で考え込みました。
 すると川の中から茶色い頭がぷかーとあらわれました。
「お前さんたち、ここでなにしちょるかね」
 チュー太は咄嗟にリリーの前に躍り出て両手をひろげました。
「おいおい、安心しい。オイラはダムのふもとに棲みついちょるビーバーさ。ビーさんと呼ばれちょる」
 大きな歯を出して恵比須のような顔になりました。チュー太たちがまだ身構えていると、
「なにか困っちょるようだな。どうしたんだい」
 と川から這い上がってきました。ぺったりした体をぶるぶるさせるとあっという間にとげとげしい毛が逆立ちました。それからしゃもじのような尻尾で地面を叩き自慢げにしています。
「ビーさん、この先にある虹色のキノコを採りにいきたいのですが、橋がなくて困っています」
 チュー太の後ろから顔を出したリリーが言いました。
「そうかい。それならオイラにつかまんな。向こう岸まで連れてっちゃるよ」
 そうして再び川に入るとふっくらした背中を浮き袋のように浮かべました。チュー太もリリーへとうなずき返します。水に飛び込んだリリーが両手ではさむように背中をつかみ、あとから飛び乗ったチュー太がリリーのおでこのところで身をふせました。ビーは、つかまっちょりよ、とひと息吸い込むと、しっぽを船のスクリューのようにぐいぐいうごかしました。みるみる加速して、流れに負けじと突き進んでいきます。チュー太たちはまるで海を冒険しているみたいに目を輝かせています。が、そのときチュー太が黒い影を発見しました。ワニがいたのです。
 ワニは早速彼らを見つけ、よだれを垂らして口をパカパカさせました。
「ワォ、旨そうな獲物だなあ。とくにふわっふわっしたワンコが旨そうだ」
 舌なめずりをし、両手をこすり合わせ、リリーに向かってウインクしました。それを見たリリーは縮み上がりました。
 チュー太は、ビーさん、早く逃げて、早く逃げて、と叫び、ビーは、よっしゃ、まかせちょりー、と水しぶきをあげ、三匹が真っ白で見えなくなるぐらい力みました。
「まて、まてー。今日のご飯ちゃーん。ひとかじりでもいいからその綿菓子のお尻をちょーだーい」
 スイカみたいな真っ赤な口を開けて追いかけてきます。追いつかれまいとビーも水しぶきをあげます。そこに顔を出した岩を見つけ、鼻先のところでビーはスクリュー全開、岩を飛び越えました。ワニは猛スピードでよけきれず岩にぶつかりました。頭の上にちかちか星が舞い、ばしゃーんと音立てて仰向けに倒れました。どうやら気絶してしまったようです。
「ふいー。なんとか逃げ切れたわい」
 三匹は無事陸に這い上がりました。チュー太たちは先を急いでいたので、ほんとに助かったよ、ありがと、と握手を交わすとまた駆け出していきました。
 登り坂が急になるとダムのコンクリートが見えてきました。ダムの斜面はあまりにきつくその向こうはなにも見えません。二匹には世界一高い山のように見えています。チュー太は腕組みしました。
「こんな近くに、こんな大きなダムがあったとは知らなかったや。たぶん世界一高いエベレストより大きいんじゃないかな」
「ね、わたしもインドに行って、なまでエベレスト見たことあるけど、このダムのほうがずっと高くて大きいね」
「うん、ぼくもインド、行った、行った。おじいさんが富士山に連れてってくれたついでに自転車で乗せてってくれたんだよ。なまで見たエベレストも、たしかにこのダムにはかなわなかったなあ」
「うん、うん、富士山も、エベレストも、このダムにはかなわなかった」
 二匹は見栄を張るほど興奮していました。
「虹色のキノコ、どこにあるのかなあ」
 チュー太は額に手を当てて下を覗き込みました。底までは見えませんが、ダムの真ん中から流れ落ちている水が、どどどど、とひっきりなしに地面を打ちつけています。
「うーん。ダムの近くにあるのはたしかなんだけどなあ。上か下か分かんないや。とりあえずいっぱい茂みがあるし下から探してみようか。でも階段も梯子もないなあ」
 リリーは口をとがらせました。チュー太も、うーん、と首をかしげました。そのとき大きな影が差し二匹は空を見上げました。
 そこには凧のように大きな鳥が舞っていて、逃げる間もなく目の前に降りてきました。
「なにかお困りのご様子で。私はここに棲みついているトンビのトビーと申します。あっ、いえっ、ご安心ください。私はベジタリアンでして貴方たちを襲ったりはしません」
 羽を胸の前にそっと置き、しゃんとお辞儀をしました。その紳士さにチュー太たちは目を丸くし、リリーはスカートなんかないのに白綿毛の裾をもってお辞儀し返しました。
「トビーさん、初めまして。病気を治すために虹色のキノコを探しています。ダムの下に降りたいのですが、階段もなければ梯子もありません。お願いです、私たちを下におろしていただけませんか」
 うるるんとした目をパチパチさせてトビーを見つめます。トビーは思わず、こほん、と咳払いしました。
「左様ですか。お安いご用です。それでは私めの背中にお乗りください。ひとっ飛びで連れてさしあげましょう」
 トビーは背を向けて左右の翼を高々とひろげました。その一本一本が羽ペンにもなる立派さです。チュー太たちは、いいのかな、と顔を見合わせました。するとトビーがひょいひょいと両肩をすくめました。二匹はうなずき合い、リリーが乗って、その胸のところにチュー太が収まりました。
「行きますよ、つかまっててください」
 バサッ、バサッ、バサッ。あっという間に宙に浮き、地面がどんどん小さくなっていきます。リリーはしっぽをふりふりしました。
「そ、空飛ぶじゅうたんみたいだね」
「うん、ほんものの鳥になったみたいだ」
 チュー太もひげをめいっぱいひろげています。が、そのとき大きな影が彼らを覆いました。トビーよりも二まわりも大きい鷲が近づいていたのです。
「よお、トビー。旨そうなのを持ってるじゃねーか。その小ぶりのネズ公なんか酒のあてに丁度よさそうだ」
 トビーが睨み返します。
「また貴方ですか。私はベジタリアンです。何度言えばお分かりいただけるのでしょうか。この方たちは困ってらっしゃるのです。邪魔しないでください」
「おっ、今日はやけに冷たいじゃねーか。こうなったら獲物を奪い取るまでだ」
 大鷲はずるがしこい顔で何度もトビーにぶつかっては獲物をふり落とそうとします。チュー太はリリーが目をつぶって震えているのに気がつきました。
「リリーちゃん、こわい?」
 チュー太はうずくまっているリリーのおでこにほっぺたをぺたっとくっつけました。
「うん、こわい」
 リリーは頭を伏せてぶるぶる震えているばかりです。
 チュー太は、リリーちゃんは女の子なんだ、守ってあげなきゃ、と肩をいからせました。
「よし、僕にまかせて」
 大鷲が体当たりしてくるのに合わせて、タターン、とトビーの背中を跳ねて大鷲へと跳び移りました。そして頭へと駆け上り両方の瞼をつかんで、ぎゅうと押し下げました。
「おい、前が見えねえじゃねーか。こんなことして只じゃすまさねーぞ」
 大鷲は渾身の力で、ぐぐぐぅ、と瞼を持ち上げようとしました。チュー太も負けじと、ふぬぬぬ、とやじろべいみたいな格好でふんばります。
「ぐぬわああー」
「ふぬぬぬぬー」
「く、くそっ、持ち上がりやしねえ」
 作戦を切り替えた大鷲はぐるぐる回転し、チュー太を振り落としにかかりました。チュー太は脚の指で大鷲の毛をひっつかんでこらえています。そうする間に大鷲は方向を失って地面へと勢いよく向かっていきました。
「危ない、チューくんっ」
「白ねずみさんっ」
 リリーとトビーの悲鳴があがりました。
「えい、今だっ」
 チュー太は地面すれすれのところで宙へジャンプしました。そこへすかさずトビーが迎えにき、その背中でキャッチしました。よけきれなかった大鷲は口ばしがスコップの役目になって、顔がまるまる地面に埋まってしまいました。その後ごろんと引っくり返って気絶しました。
「チューくん、凄いっ」
 リリーは垂れた耳をぱふぱふさせました。
「いやー、あなたの勇敢さに感服いたしました。チューさん、心から感謝いたします」
「へへ、これぐらい大したことないやい」
 指先で鼻をこするチュー太に、リリーは、ありがと、とほっぺにキスしました。チュー太は頭のてっぺんからしっぽの先までヤカンみたいに沸騰し、カチンコチンになってしまいました。
「おーととと、チューさん、しっかり捕まっていないと落ちてしまいますよ」
 トビーは上空で弧を描き、狙いを定めると翼をたたみました。ぐっと傾いて急転直下に降りていきます。二匹はおでこを丸出しにしながら鳥に生まれ変わった気分を満喫しました。バサッ、バサッ。ひろげた翼に空気がはらんでふわっと降り立ちました。
「さあ、着きましたよ。そのキノコとやらが見つかるといいですね。また帰りに呼んでくだされば、このトビーお役に立ってみせましょう。それではしばし失礼」
 そう言ってトビーはまた大空へと飛び立っていきました。
「よし、探そう」
「うん」
 チュー太の呼びかけにリリーは背筋を伸ばしました。
「キノコだから、あっちらへんのじめじめしたコケにまぎれてるかも」
「そうだね。あっちらへんから探そう」
 今度はチュー太がリリーの呼びかけに背筋を伸ばしました。
「虹色っ、虹色っ、虹色っ」
 チュー太は切株の上を次から次に跳び移って、手で望遠鏡をつくっては探し回っています。
「キノコ、キノコ、ほんものの虹よりきらきらしたキノコー」
 リリーは鼻を地面にくっつけくんくんしながら探し回っています。
 くんくん、くんくん。
 チュー太も真似をして、四つん這いになってくんくん嗅ぎ始めました。
「なんか土の匂いしかしないやい」
 首をかしげながらもまた地面に鼻をくっつけます。
「あーっ、なんか匂う。嗅いだことのある懐かしくて甘い匂いがする」
 ぺたぺた。
 ちょこちょこ。
 ぺたぺた。
 ちょこちょこ。
 ぽいーん。トテーン!
 チュー太はふわふわした綿毛にぶつかり尻もちをつきました。顔をあげるとそこにはお尻がありました。振り向いたリリーが目をくりくりさせています。
「チューくん、大丈夫?」
「こ、これぐらいへっちゃらだい」
 顔を赤く染めながらお尻をはたいて立ち上がりました。
 それからも探しましたがどうしても見つけられません。二匹はとうとう咽がからからになり、ダムから流れ落ちている水を飲もうと後戻りしました。
 ザザザザー。
 近づくにつれ水しぶきが大きくなってきます。
「岩場はすべるから気をつけてね」
 先頭をきってチュー太は岩から岩へ跳ねていきます。そうして滝のわきにたどり着くと、あーん、と天に向かって口をあけました。口めがけて大粒のしずくが次々飛び込んできます。その度に咽がぐびぐびと鳴り、リリーもたまらず、
「わたしもやりたい!」
 とチュー太の横に駆けつけました。が、勢い余って、ぼよーん、とチュー太を押しのけてしまいました。チュー太は、おっとっとっと、と片足でふらふらしました。
「あやー、大丈夫?」
 するとチュー太が目を真ん丸にして叫びました。
「ああーっ、あったっ!」
 探し求めていたキノコがダムと滝のすき間に虹の絨毯のように生い茂っています。
「うわぁー、あった! あった! それもこんなにたくさん」
 リリーも目を丸くしてチュー太の手を取って小躍りしました。それからしぶきに濡れるのも構わずに隙間に入って、キノコを一個、二個、三個とチュー太がもぎとりました。
 おかげで二匹はずぶ濡れ、岩場に出て体をぶるぶるさせます。二匹とも頭の先からしっぽの先までボーボー。まるでウニのようです。お互い笑い転げました。
「これがおじいさんの分、ビーさんの分、トビーさんの分」
 チュー太は胸の前でキノコの茎を束ねて誇らしげに鼻をすすりました。
「早く帰って、食べさせてあげなくっちゃ。――あら?」
 リリーは岩場の隅の草陰で光るものを見つけました。そばに行くと、つるんときらめく翡翠のペンダントが落ちていました。
「うわー、草が固まったみたいな緑なのにきらきらしてる。ねえ、チューくん、これ、私にかけてちょうだい」
 首にかけやすいようにリリーは頭を下げ、チュー太は両脇と股にキノコをかかえながら、指先でかちんとかけてやりました。
「えへへ、世界一似合ってる」
 そう言ってすももみたいに顔中を赤くしました。
「えへへ、嬉しい」
 リリーの顔もまたすももみたいに染まりました。
 それからチュー太は空をキッと見上げ、
「おーい、トビーさーん、迎えにきてくれないかーい」
 と声を張り上げました。すると空気をはらんだ翼がぶわっと迫ってきてトビーが降り立ちました。
「おお、ありましたか。さ、さ、お乗りください」
 翼をひろげ背中をぐっと落とします。リリーが飛び乗ります。次いでチュー太の番ですが、
「紳士のトビーさん。ちょっと頭を下げて目をつぶって口をあけてみて」
「なにをなさるというのです」
「いいから、いいから」
 そうして目を閉じて開けられた口にひょいっとキノコを投げ入れました。
 もぐもぐもぐ、ごっくん。トビーは跳び上がりました。
「こりゃ、うまいっ。血がびゅーびゅー流れるようで体中に力がみなぎりますぞ」
 翼をバサバサと揺らし驚きの声をあげました。えっへん、と胸を張ったチュー太は人差し指と親指で丸を作ってオーケーサインをし、リリーの胸のところに飛び乗りました。
「それでは行きますよ。しっかり捕まっていてくださいね」
 そう聞いたかと思うと、あっという間に上空に達していました。それからもみるみる駆け抜けていきます。目を見張っていたチュー太が指さしました。
「あっ、あそこ。トビーさん、少し低く飛んでくれないかい」
「分かりました。あの川のところですね」
 トビーが両肩を寄せるとぎゅうっと下がっていきました。リリーが声を張り上げます。
「ビーさーん。上、上、ここだよー」
 寝そべっていたビーがむくりと起きて天を見上げました。チュー太も叫びます。
「ビーさーん。口開けてー。早く、早く」
 ビーは頭を掻きわけもわからず口を開けました。そこへタイミング良く放ったキノコがすっぽり収まりました。
「やったい、ぴったしかんかんだ」
「さすがチューくん。トビーさんとのコンビもばっちりだね」
 リリーは自分のことのようにしっぽをふって大喜びです。
「さようなら、ビーさーん。この恩は一生忘れないからぁ」
「わたしも忘れないからぁ」
 二匹はそろって、口をもぐもぐさせて両手を振っているビーに叫びました。お前さんたちも達者でなぁ、と響く声がどんどん小さくなっていきました。
「さ、二人とも捕まっていてくださいよ。風よりも速く突っ走りますから」
 トビーは太陽に突き刺さる勢いで上空へと舞い上がりうなるような加速をしていきました。川を越え、森を抜け、あっという間にチュー太の家の前に降り立ちました。
「トビーさん、感謝の言葉がないぐらい助かったよ」
「私たちのためにありがと」
 地面に立った二匹は深々と頭を下げました。
「礼には及びません。さ、キノコを早くおじいさまに食べさせてあげてください。それでは失礼!」
 砂ぼこりを立てるとぎゅうーっと舞い上がり一瞬で姿が見えなくなりました。
「よし、急ごう」
 チュー太は我が家へと駆け上がり、おじいさんが寝込んでいる布団のわきへ駆けつけました。心配なリリーもパカパカ開く扉にお尻をひっかけながらもなんとかくぐり付き添っています。
「ただいまっ、じいちゃん。取れたての薬を持って来たよ」
「チュー太。そ、それはこの村の言い伝えの虹色のキノコではないか。さっそく食べさせておくれ」
 薄目しか開けられないぐらい弱り果てていたおじいさんがやっと言いました。
「うん、早く食べてみて、早く、早く」
 二匹はおじいさんがキノコを食べるのをかたずをのんで見守りました。チュー太にいたっては、お願い! と手を合わせて祈っています。それを見てリリーも、お願い! と手を合わせました。おじいさんは一口齧りつくと、かみしめるように顎を動かしごくりと呑み込みました。顔のひどい赤らみがみるみる引いていきます。
「おお、これは上手い。急に元気が湧いてきたぞ。今すぐ飛び跳ねたい気分じゃ」
 おじいさんはむくっと立ち上がり、イチ、ニ、イチ、ニ、とチュー太たちに体操をしてみせました。チュー太とリリーも、やったぁ、と歓声を上げました。
「じいちゃん! 死んじゃうかと思ったよ」
 チュー太はおじいさんのつま先をシュタタッとよじ登り、胸ポケットの中にスポッともぐってきゅうっと抱きしめました。
「心配かけてすまんかったなあ。ほれ、この通り元気じゃ。リリーちゃんも一緒に行ってくれたのかい。ほんとうにありがとさん」
「とんでもないです。おじいさんはいつも畑のものを分けてくれますから」
 リリーも飛び跳ねて大喜びです。おじいさんの周りをトットットと歩き、しまいには二本足で立ってジャンプしました。
「じいちゃん、また美味しいピーナッツとあずきを食べさせてね。それと将棋もね」
「いいとも。わしも張り切るぞー。チュー太は眠らずに頑張れるじゃろか?」
 おじいさんはにこにこしながら言いました。
「へん、誰が一度だって寝るもんかい。寝るわけないやい」
 チュー太は口をへの字にしましたが顔は笑っています。
「ねえ、将棋ってなあに? わたしもやりたいっ」
「ああ、いいとも。かわいいお前さんたちと将棋が打てるなんてわしは世界一の幸せ者じゃわい」
 おじいさんは将棋の盤をチュー太たちの前に置きました。二匹はほっぺたを持ちり上げて目をきらきらさせています。
「ねぇねぇ、どうやって遊ぶの。この駒を立てて並べていくの?」
 リリーが鼻先で駒をツンツンつつきました。
「リリーちゃん、それはドミノ倒し。なにもわかってないんだからぁ」
「これ、チュー太。レディーにはもっと優しくするものじゃ。いいかね、リリーちゃん、将棋というのはね」
 おじいさんは将棋のルールを話してあげながら、ふと思いました。たとえ人間でなくとも息子、娘のように可愛い子達さえいれば幸せいっぱいなのだと。すると先立たれた妻を思い出し涙を零しそうになりました。その様子に気がついたチュー太とリリーは温かい目で見て見ぬふりをして、そのままがやがやと騒がしくしていました。そうしてそこにまたおじいさんが加わって、遊び疲れたと言っても容赦せんぞー、とそれこそみんなで遊び疲れるまで盛り上がったのでした。


<作品のテーマ>

へたっぴです。
よろしくお願いします。
   投稿者  : 正宗友理子
 こんばんは。
 懐かしいテイストが良かったです。平易なネーミングとか、登場人物の話し方とか、食べ物とか。視覚的な描写も読みやすかったです。アニメーションのノベライズみたいでした。
 私見ですが、キャラクターの過去や日常をもっと掘り下げてみたら、さらに思い入れがしやすくなるかもしれません。今のままでも十分「チュー太がんばれ!」となるんですけどね。
 楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
   投稿日 : 2016/02/27 20:40
   投稿者  : イネ
正宗友理子さまへ

こんにちは。
読んでくれてうれしいです。自分でもほんのちょっとだけディズニーのアニメみたいって思いながら書いていました。
過去とか日常とか入れられるようにがんばります。
感想ありがとうございました。
   投稿日 : 2016/02/28 13:58
   投稿者  : 白河甚平
チュー太くんの仕草がとても可愛らしいです。
特に手足をつかっての表現が面白くて思わず悶えてしまいました。笑
登場人物がみんな動物でそれぞれに特徴があって可愛らしいですし
おじいさんとチュー太くんのお話もとても感動しました。
子供から大人まで楽しめれる小説だと思いました。
   投稿日 : 2016/02/28 14:01
   投稿者  : イネ
白河甚平さまへ

こんにちは。
悶えてくれたところがあったようでうれしいです。このサイトでも仕草の指摘とかがいっぱいでていたので、そういうのを参考にしながら書き書きしてみました。
また機会があったらがんばります。
感想ありがとうございました。
   投稿日 : 2016/02/28 14:18
   投稿者  : イネ
もしもし。
どなたかこの小説をもとにしたイラストを描いてくれる人はいませんか〜。
描いてくれる人がいたらとってもうれしいです。でわでわ。
   投稿日 : 2016/03/01 09:06
   投稿者  : 白河甚平
もしもし。
私で良ければ描かせていただきますよ、イネさん。
お返事いただけますと嬉しいです。
   投稿日 : 2016/03/01 11:00
   投稿者  : イネ
白河甚平さんへ

あやー、白河さんが描いてくださるなんてうれしすぎです。
ぜひぜひよろしくお願いします。でわでわお待ちしております。わくわくどきどき。
   投稿日 : 2016/03/01 12:19
   投稿者  : かわうそまつり
 しぐさを意識されていると他の方々への返信に書かれているだけあって、登場人物(動物)がイキイキしていますね。ストーリー展開も、タイトル通りのまさに大冒険。ドキドキハラハラさせられて、とても楽しめる一作でした。
 アドバイス、というのもさしでがましいのですが、一つだけ。
 少し伏線を張ることを意識してみてはいかがでしょうか。
 たとえば、先日の台風で橋が流されていましたが、読者は『先日の台風』を知らないため、ちょっと唐突な印象を受けてしまいます。
 こういう場合は、冒頭の将棋を指すシーンの中で――
「じいちゃん、外はすごい嵐だね」
「怖いかい?」
「うんん、怖かないやい」
 ――みたいなやりとりをちょっと書いておけば、橋がなかったときに、きっと昨夜の嵐で流されてしまったんだ――と不自然なく物語を進めることが出来るのかなと思います。
 最後、おじいさんが涙を流しそうになる箇所についても、せっかく感動的なシーンですのに、読者はおじいさんに先立たれた妻がいたことを知らないため、どうしても感動が薄れてしまうのかな、と。こちらもやはり冒頭で、仏壇にお線香を供えるようなシーンを入れるなどすれば良いのかな、と思います。
 
 私はディズニーのアニメよりも『ガンバの冒険』を思い出しました。ベジタリアンのとんびはよかったです。こちらは『ニルスのふしぎな旅』に出てきた、魚しか食べない鷲のゴルゴを思い出しました。
 繰り返しになりますが、とても楽しい作品でした。チュー太とリリー、二匹の冒険ものとして、シリーズ化出来そうですね。
   投稿日 : 2016/03/05 08:19
   投稿者  : イネ
かわうそまつりさまへ

こんばんは。
そうなんです。説明をしないようにイキイキを心がけました。ドキドキハラハラしてもらえてとってもうれしいです。
なるほど、こういう台風とか妻のところで伏線をはるのですね。書きながら自分でもなんか突然かなと思ってたんですけど、こういうところでがんばって不自然さをなくすのですね。早速なおしてみます!
あ、あと、この小説をもとに白河さんが素敵なイラストを描いてくださいました。そちらも見てもらえるととってもうれしいです。本格アニメみたいにすごくきれいです。
楽しいと言ってくださり、感想ありがとうございました!
   投稿日 : 2016/03/05 19:31
   投稿者  : 大羽紀彰
子供に読み聞かせしたくなるようなお話しですね。
キャラクターがイキイキしていて読んでいてワクワクしました。
もし次のお話しがあったら読みたいなと思いました。
   投稿日 : 2016/03/06 07:25
   投稿者  : イネ
大羽紀彰さまへ

読んでくれてうれしいです。
イキイキワクワクを心がけました。
次もまたいつかがんばります! ありがとうございました!
   投稿日 : 2016/03/07 09:33
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