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   『14日の土曜日 [沼]』

         投稿者 : 土門


 准子は目を見開いた。きっと、初めて見たその広い沼に驚いているのだろう。
「こんなに広かったんだね」
傍らに立つユリも驚いたという表情で沼を見つめている。
「もう少し近づいてみる?」
二人はスクールバッグを脇の草原に置き、沼へと歩みを進めた。――彼女らは下校中であった。ユリが聞いてきた「その沼で昔自殺した少女がいる」という噂を聞いて二人はやってきたのだ。
「特に何もなさそうだけど……」
准子は辺りを見回す。そこには茶というより黒っぽく濁る沼のほかは何もなかった。
「別に亡霊さんも見当たらないね」
ユリも辺りを見回すが、やはりそこには何もなかった。
「なあんだ、つまらないの。准子、帰ろうか」
ユリはあくびをしながら草原の方へと踵を返した。
「そうね、別に何もないみたいね」
准子も沼に背を向けてユリを追いかけた。そして、ふと准子はもう一度沼の方を振り返った。
「どうした?准子」
「ううん、なんでもない」
准子は再び草原を向き、二人はそのまま沼を後にして家につくこととなった。

「特に何もなかったなぁ」
普段のように机の上の日記帳とにらめっこする准子であったが、生憎、今日は大したことがなかったようだ。
「あ、ユリと沼に行ったか。……なんか妙な沼だったな、そう、まるで、……まあいっか」
呟きつつも、准子はそれを日記には書かず、そのまま日記帳をパタと閉じてベッドへと入り込んだ。一あくびをした准子は、その数分後には眠りについていた。


 翌日の朝、ベッドの上で目を開けた准子は身震いをした。虫の知らせというのか、何やら嫌な予感がしたらしい。顔をしかめた准子は、そのまま数秒そうしていたが、やがて起き上がりストレッチを始めた。手足をよく伸ばした彼女はそのままリビングへと降りていった。すると、電話機を握る母がそこにいて、何やら深刻な顔をしていた。
「はい、はい、わかりました……、はい、失礼します」
そう言って受話器を置いた母の顔は普段よりも青かった。
「准子、よく聞いてね」
母は消え入りそうな声で准子に話しかけた。准子は眉をしかめ、そしてぎゅっと拳を握った。
「ユリちゃんが亡くなったそうよ……」
准子は口を開き、何か言おうとしたのかパクパクとし、しかしそこから声は漏れず、そのまま口を閉じた。
「自殺だって……」
母も俯きながら小さく口にする。准子はというと、両手で顔を覆ってそして少しその場でよろめいた。
「ユリが……自殺……? そんなわけ……」
准子がようやく口にした言葉からは、その驚きと不信感が表れていた。言葉にすることで何か踏ん切りがついたのか、准子は急いで階段を駆け上った。そして自分の部屋に入ると、ベッドの脇に放り投げてあった日記帳を掴んだ。
「何も書いてない、か」
ユリと沼で何かあったのか。昨日の沼にやはり何かあったのではないか。准子はその沼で感じたことを思い出そうとしているようだったが、日記帳は真っ白のまま准子を見つめてくるだけであった。
「行ってみるか」
自分の中の恐怖を振り払うためか、わざとらしく准子は口にしてから私服に着替え始めた。そうして帽子まで被ると、急いで家を飛び出していった。

 准子は沼に着くと周りを見回した。その場で不思議に思ったような顔を浮かべていたが、やがて腑に落ちたのか沼へと近づいていった。きっと、昨日よりも明るい沼に対して違和感を覚えたのだろう。昨日は真っ黒だった沼の様子も、朝の日差しの下では反射のせいか明るい茶色にさえ見えてくる。
「やっぱり特に何もないか」
口にしないと不安に食いつぶされてしまいそうだったのか、准子は周囲を見ながら指差し確認をしていく。
「こっちも何もない、こっちも沼があるだけ、こっちも何もない……」
そう言っていく准子の声と足は少しだけ震えていたが、彼女は自分の周囲全てを確認し終えたようだった。
「やっぱり特に何もないね、うん、何もない」
最後の言葉は自分へのメッセージであったのだろうか、准子は言葉を発しながら大きく頷いた。そうして、沼に背を向けようとしたとき、准子の体は大きく傾いて沼の中に落ちていった。
「ん……ん!」
力を込めて起き上がろうとしている准子だったが、何やら上から強い力に押されているようにしてその体は少し動くばかりで、立ち上がるには程遠かった。
「う……」
准子は必死に身を起こそうと力を尽くしたが、やがて彼女の抵抗の声は小さくなっていき、遂には動かなくなってしまった。沼――水と泥の中で人間が呼吸をできるはずもなく、准子にも限界が訪れてしまったようだった。
「ふ、ふふふ、ふはははは」
何かがその沼の傍らで笑っているようであった。しかし、そこには明らかに何もいなく、准子が沼の中に落ちているだけであった。傍らの笑い声もやがて静かになっていき、その沼にはシンという張り詰められたような空気だけが残された。


「ここで昔二人の子どもが自殺したんだって」
「えー怖い」
あの忌まわしい『事故』から幾年経ったであろうか、その沼には再び二人の少女が辺りを見回していた。
「でも、別に亡霊さんも見当たらないね」
「特に何もなさそうだね」
そう言って、彼女らも沼に背を向けて帰り始めた……。


<作品のテーマ>

前回は無印でしたが、つけるならば[湖]というところ。今作は[沼]ですから、次回作は[川]か[池]あたりか。毎14日の土曜日にホラーを書いていきたいなとは思っています。できれば。

前回同様、内容は13日の金曜日とまったく関連していないので、オリジナル作品のつもりです。ただ、ホラー作品はあまり書きなれていないのでテンプレートに近いかもしれない、とは気にしていますのでご容赦願います。

いつもの通り、感想・コメント・アドバイス等、いただけたら嬉しいです。勿論、読んでいただくだけでも、嬉しいです。
   投稿者  : 
読ませていただきました。
無限ループって怖いですね…。
ただ、いくつか気になる点がありましたので報告させていただきます。私もあくまで素人なので、あまり参考にならないかもしれませんが(;´・ω・)
まず、結果的に准子とユリはどちらも沼で亡くなったわけですよね。最後には「ここで二人が亡くなった」ということが書いてありますが、前半の書き方だと無限ループが准子たちの前から続いている、ということが分かりづらい気がします。主人公たちを沼に沈めた力についても、多少言及してほしかったです。
でも、ホラー作品で無限ループというのは面白かったです。単に今まで読んだ作品が少なかったからかもしれませんが、私は新しいなぁと感じました。
これからも創作頑張ってください。次の十四日の土曜日を楽しみにしております(笑)
   投稿日 : 2017/01/15 14:42
   投稿者  : ペガサス
拝読いたしました。

ホラーは苦手なので、読んで行くうちにそれと分かるとやはり読みすすめが怖かったです。
もしかしてやはりホラーは書きなれていらっしゃるのでしょうか?
草原と沼のある通学路があまり想像ができなかったのですが、山間部の町ということでよかったでしょうか。
いくつか表現で分かりづらかったのが、第三者から見た語り口の描写が数箇所出てきて、読み慣れない感を受けました。
沼というものにそこまでは詳しくないのですが、この場合は水がそこはかとなく少なくて泥の面が見えるほどの沼ということでしょうか。
蓮も咲くぐらいの深さを想像していたので、起き上がれない、立ち上がれない、動けない、落ちているだけ、というのが、どうやら泥沼のような場所かと。
この前は十三日の金曜日でしたね。その日に仕事でちょうどチェーンソウを使っている人がいたのですが、それに気づいたのは後のことでした。
なので、十四日の土曜日にスポットを当てて湖沼系のホラーを作ろうという挑戦はなかなか思いつかないことだと思います。
冬空のもとでのホラー作品、読み応えがありました。
   投稿日 : 2017/01/16 00:43
   投稿者  : 涼格朱銀
 ホラーについては、むしろテンプレートを積極的に利用した方がいいです。夜の沼でバカップルがいちゃいちゃしていたら、沼から突然手が伸びてきて男が引きずり込まれるとか、まずはベタベタの展開で全然構いません。
 なぜなら、恐怖とは本能的なものだからです。本能に訴えかけるものは、あまり小細工しても意味がありません。怖いものはどうしたって怖いし、下手にオリジナリティを出そうとしてそれを外そうとすると、怖くなくなってしまう可能性があります。

 この作品に不満があるとすれば、むしろ無理にオリジナリティを出そうとしていることに対してなのですよね。下校中などという中途半端な時間に沼に行って、「何も無かった」で終わってはダメです。ユリの死因も自殺という、とても抽象的かつ煮え切らない話で終わってますし。
 ちゃんとユリは「真夜中」に「彼氏」ともう一度沼に行って、で、彼氏が「やっぱりなんにもないじゃん。こんな沼なんか別に怖くねえよ」とか罰当たりなことを言った途端に沼に引きずり込まれて、ユリは逃げようとするけどなんかよくわからんものに追っかけられて捕まるとか、由緒正しいホラーな展開が是非とも必要なはずです。
 で、ユリは「自殺」じゃなくて「行方不明」で、准子はユリを探しに沼に行くのです。いろいろな場所を探している内に暗くなって、沼に着くのは夜になっているといいですね。14日土曜日の23時くらいだとなおいいです。
 で、ラストで准子を沼に引きずり込もうとするのは、沼の住人になったユリということにします。だってウチら友達じゃん。
 ラストの展開は二通りで、そのまま仲良く沼に引きずり込まれるか、ユリを鈍器でぶん殴って逃げるかです。『13日の金曜日』に敬意を払うなら、鉈などの農具を使うとより良いかもしれませんが、私はホラーファンではないのでこの辺はどうでもいいです。
 こんなテンプレートの塊のような話でいいのかと思うかもしれませんけど、これでも今の話よりずっと本格ホラーっぽく見えるようになるはずです。

 あと、14日の土曜日という設定が特に話の中で出てこないのが気になりました。別に凝った仕掛けは要らないので、13日の金曜日の夜に沼に行って、真夜中を過ぎて14日の土曜になったところでなにか起きるとか、そういうのを入れた方がいいんじゃないかと思います。
   投稿日 : 2017/01/16 21:58
   投稿者  : 土門
皆様、返信が遅くなってしまい申し訳ありません。
どれも大変参考になるご意見で、ありがたく思っております。

>零さん
 二人が亡くなったところですが、私は「ユリはあくまでも自殺」ということで、沼では亡くなっていない設定になっていました。そもそもこれがおかしいんですけど、そのつもりで書いてしまっていたので沼で亡くなったのは二人、と書いた次第です。でも、ユリも沼で亡くなったほうがホラーらしさが強められたのかもしれません。
 無限ループの書き方は、怨念って消えないどころか溜まっていくぜ的な意図が自分の中にあって、そこに注目していただけたのは嬉しかったです。
 大変丁寧な感想、ありがとうございました。

>ペガサスさん
 ……ホラー作品は書きなれていません。まだ数回しか書いたことがなく、手探りの状態が続いていますね。笑
 沼の詳しい描写ですが、はっきり書いていなかったのはもやもやとした不明瞭感を演出して、闇や恐怖につなげられないかな、という思いがほんの少しあったのですが、やはり難しいですね。小説ですから、描写は丁寧に詳しく鮮明に、を意識するべきだったなと今更ながら反省しております。
 ホラー作品を普段書いたことがなくて、13日の金曜日にあやかって書けば書けるかな、と思ったけど、せっかく書くなら前々関係ない話……とは思いつつも完全には離れきれないところが私の14日の土曜日2作品なのかもしれません。この挑戦を通して描写力も鍛えられたらな、と思っております。
 最後になりますが、丁重なコメントをありがとうございました。

>涼格朱銀さん
 他のサイトなども調べてみたところ、確かにホラーストーリーでは「お約束」というものが大切だとわかりました。
 朱銀さんのご指摘を受けてもう一度自身の作品を読み直してみると、怖さの源たる部分が欠けていることに気付きました。きっとそれが本能に訴えかけるもので、テンプレートに積み上げられてきたレッテルなのでしょうね。
 14日の土曜日という設定ですが、元々大した意図はなく、13日の金曜日にあやかったのと、自身のペンネーム「土門」の一字から思いついたタイトル・ストーリーですので、自分自身での意識が薄かったところがあります。
 
 そして、この作品でのオリジナリティですが、やはりホラー小説ではテンプレートが幹となるのでしょうね。
 私はそういったことを知らなかったので、「ホラー」をお構いなしにストーリー構築をしてしまったようです。確かに朱銀さんがおっしゃるとおり、「彼氏」であったり「沼の住人」であったりといった、読者にもわかりやすい設定を持ち出した方が恐怖が伝わるのかもしれませんね。

 的確なアドバイス、ありがとうございました。
   投稿日 : 2017/01/19 18:12
   投稿者  : てこてこ
面白かったです。ある意味よくある王道な話ですが、最後をループの様にする等工夫がされていて綺麗にまとまっていたと思います。
少し気になったのは、ホラー作品であるからには、今回ですと「沼」の異様さがもっと欲しかったなぁと。「何かがかがその沼の傍らで笑っているようであった〜」というだけですと、何だか怖いというより逆にシュールに見えます。二人で見に行った時に何かがあるとか、または何も無くてもふたりが去っていく後ろ姿を「何かが沼の中から見ていた」等、少しぞっとする様な描写を入れると良いと思います。
あとは准子の日記ですが、そういったアイテムを出すからには、何かがあって、本当に重要な事を書き忘れた等の描写がある方が後々の展開に作用してくると思います。このままですと、日記のくだりの意味が無いので。
とまぁさらっとですが参考になれば幸いです。
個人的にこういった話好きなので、次の14日の土曜日も楽しみにしてます^^
   投稿日 : 2017/03/14 21:35
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