掲示板に戻る

   『三日月』

         投稿者 : ペガサス


 子供たちは誰もが音を潜める夜は、そっとしていなきゃいけないよ。誰もが身動きをせずに、そうだね、眠ってしまったほうがいいのでしょう。そうしたら、怖いことも分からずに、夢がどこかへ連れて行ってくれるのかもしれない。まあ、悪夢を見なければの話だけれど。
 けれど、眠る子ばかりじゃない。時にはよい子だって眠れなくてがたがたと震える夜があるだろう。カーテンの隙間から、ちかちか光る星を数えては、月が出始めたら怖くなって布団にもぐるんだ。
 今日は鋭い三日月。下弦の杯さ。それはまるで悪魔の手のひらに見えて、子供たちをその上でもてあそんでころころと転がすように感じるんだと、小さなレネは思っていた。今も布団のなかで真っ暗い脳裏に浮かび始める、あの大きな黄金の三日月。今にもそれが悪魔の爪となって襲い掛かってきそうで、ネッラは勢いよく起き上がって群青に染まる夜の部屋を見回した。けれど誰もいない。今日は猫のモルモルもほかのベッドルームで眠っている。
 大きな目でカーテンを見つめる。その向こうにはまだあの悪魔がいるのだろうか? あんなに綺麗な星屑の衣装を着た悪魔が地球を覆って宇宙から自分を見てきている。レネは柔らかなカーテンをそっとさわって、怖いもの見たさで再び明るい夜の世界を見る。
「そうよ。怖くなんかないわ。女神様の微笑む唇だって思えばいいのだもの。そうしたら、なんという綺麗な夜かしら。悪魔なんかは夜の暗がりでひっそりと隠れていて、出てきやしないのかもしれない」
 子供心に言い聞かせて、まじまじと月を見上げると、ふいに夜に神秘の声を響かせる鳥が一鳴き。それはことごとく小さな心を落ち着かせてくれる。もうちょっと小さいころなんていうのは、その鳥の夜の囀りにも不可思議なものを感じて、震えていたこともあったんだけれどね。今ではもうその美しい鳥の正体を知っているから大丈夫。知らないというものこそが恐怖の源でもあるのだときっと今にレネも気づく年がくるのでしょう。
 もう少しレネはカーテンを引いてみました。月光に照らされた夜の街を見ようと。ここは古い煉瓦の町並みが深い森と山に囲まれた村。そこから夜の鳥は声を響かせているのです。窓の外を見てみると、誰もが静かにする夜は、大人でさえも見当たらない。鳥の声も再び森の深くへとはばたいたのか、風の音すら今は聞こえなくなったので、レネはもう少し外を見ていることにしたみたい。だけれど、お歌も歌わずに、今はお話をする相手もいないから小さなお口をぽかんと開いているだけで、案外宝石箱のような夜の町並みを見ているのが楽しくなってきた。煉瓦のひとつひとつ、石畳の一枚一枚が月光と月影を描いて、家々の窓の外に飾られる花さえも昼とは違う彩で咲いているのが新しい発見で、レネは水色の瞳をきょろきょろさせてピンク色の唇を微笑ませた。
「あら。猫が歩いているわ。あんなところにいては月の光でできた影に隠れている悪魔に見つかるのではないかしら」
 しかし猫は何の怖がる素振りもみせずに、路地裏へと歩いていったので、レネはお口をおさえて目を丸くして静かに見ていました。けれど、猫はお友達の猫と現れてそのまま石畳の路地をてててと走っていきました。その猫たちの月影が伸びて、そして見えなくなるとレネは安心して微笑みました。
「ああ。よかった。やっぱり今日のお月様は女神様が監視しているから、平気なのよ」
 さあ、レネがどうやら夢幻にでも誘われたかのように、お外の世界に飛び出したくなってきたみたいだ。本当は、もう誰もがそっとしていなければならないというのにね。
 レネは猫に導かれたかのように、毛糸のガウンを着て、毛糸の帽子をかぶってドアを開けました。
 廊下には誰もいません。パパとママも眠っているみたいで、猫のモルモルも見当たらない。
 レネは静かに歩いていくと、鍵を開けようと玄関のドアに手を伸ばします。
「だめじゃないか。夜は静かに眠ってなければ。僕が見てないと遊びにいっちゃうんだね」
 レネは驚いてすぐに後ろと見たけれど、誰もいない。
「ひっ」
 まさかの小悪魔かしらと震え上がるけれど、足元に何かが触れて見下ろしたら、猫のモルモルだったから、レネはついついうれしくなって抱き上げました。だって猫がまさかしゃべるなんて夢のようですから。
「モルモルしゃべった」
「本当はだめだけど、僕もお出かけしたい頃合だからさ。僕がついてってあげるよ」
「今から月の女神様にご挨拶にいくの」
 レネはモルモルを抱えて鍵をあけて外に出ました。
 けれど、まだレネは知りません。夜は何があるかわからないから、大通りに来ると夜警が見張っているし、酒屋地帯には酔っ払いがいるし、ここのように静かな素敵な御伽噺のような場所だけじゃなく、そんな子供心にはなじみがないような、艶やかな色香を振りまく女たちが踊るような魔性のキャバレーもある。まあ、それも大人たちからとっては幸福な悪魔の乱舞なんでしょうけれど。
 レネはそんな夜の帳も打ち消されるような大人の場所へは遠くて行けないから、大丈夫。
 モルモルと路地を歩く大きな影と小さな影。物陰には猫仲間が様子をみています。今から森へでもいくのかしら? と見守っているのでしょう。
 森はすぐそこにあります。昼にはとても明るい森で、小動物をよく見かけるところ。本来は夜には暗くて何も見えないけれど、今日は強い光りを放つ三日月で木々の一本一本まで見えるみたい。
 モルモルと一緒に歩いていくと、見たこともない泉にたどり着きました。これも夢かしらとレネは思って、そこに誰か背を向けた女の人がいるのを見つけました。白く薄いヴェールを身にまとった髪の長い人。
「女神様だわ。きっとそう!」
 レネは走っていき、モルモルが止めるまもなくそこまで行くと、女性は小さなレネを振り向いた。
「あら、まあ。子供が出てきてしまっている」
 女性は思いのほか真っ黒い目をしていて、肌などは青白くて、レネは驚いてしまいました。
「何をしているの?」
 泉を見ると、彼女は水底に沈む小石を光らせて、夜空に上げているところで、まさか夜空をこうやってつくる人がいるのだなんてことを知りませんでした。これも夢かしら?
 女性は光る小石をひとつ手のひらにつかんで、黒く鋭い爪で円をかいて小石を指輪につけました。
「これをあげる。眠れない夜だったのね。このお守りで、ぐっすりと眠るといい」
 レネの指にその指輪を通すと、レネはふらふらとしてすうっとまぶたが重くなっていく。モルモルは幸福な眠りを約束する夜の悪魔様の腕のなかで眠るレネのところにきて、彼女の微笑をみた。
「次回こそはいけないわよ。夜の泉にはまったら、こうやって小石のような骨となって、魂を夜空にあげてやらなきゃいけなくなるから」
「うん」
 モルモルはうなづいて、悪魔様は夢を伝ってこの泉からレネをベッドへ返してあげました。
 この泉は夢の夜の泉。子供たちの悪夢に現れて、恐怖心という骸が沈んでいく。それを、彼女が一つ一つ夜空へ掲げて星にしてあげるのだから。
 子供は夜は静かにしていなきゃいけないよ。心を安らかにして眠れば、少しは怖い夢だって見なくなるから……。
 悪魔様は泉で今日のお仕事を終えて、鉄の棒でクリスタルの棒をなでるように鳴らして夜の夢を安静へとうながした。その澄んだ音は星のよう。
 下弦の時代は悪魔の役目。本当の上弦の時代の女神様のときまで、夢はお預け。


<作品のテーマ>

即興小説トレーニングで「幸福な悪魔」テーマで1時間制限で書いたのですが、投稿しようとしたところ、何かホスト解決とかキャッシュのエラーメッセージが出て不具合によりサイトに投稿できませんでした。泣
悪魔ということで、童話? のようになりました。
   投稿者  : 涼格朱銀
 期限に余裕があるなら、テーマについて調べ物をして、そこからアイデアを練ればいいのですけど、1時間で小説を書く場合、考えている時間がありません。テーマを与えられてからどうしようと考えていたら絶対に間に合わないか、中途半端なデキになります。
 ではどうするのかというと、いくつかアイデアをストックしておくことと、自分の得意なパターンを何種類か作っておく必要があります。テーマを出されたら、持っているアイデアをテーマに寄せて、得意なパターンで仕上げるわけです。つまり、下準備が大事です。

 また、短時間で作品を仕上げるには、なるべくシンプルな形のものを目指す必要があります。登場人物が多かったり、設定がややこしかったりしたら、消化不良のまま終わるのが目に見えています。余計なものはできるだけそぎ落として、テーマに集中できる形を目指します。

 この作品のテーマに関してですが、「幸福な悪魔」というのは、悪魔が幸福なのか、幸福を司る悪魔なのか、二通りの解釈ができます。ただ、幸福を司る悪魔なら「幸福『の』悪魔」の方が適切ですから、どちらかというと悪魔が幸福だと解釈する方がより正解に近い感じはしますね。
 いずれにしても問題なのは、この作品がテーマをうまく捉えていない点です。この作品のどこが「幸福な悪魔」を描いた作品なのか、読んでいてもよくわからない。
 また、主人公が外に出て悪魔と出会うまでの前説が長すぎますし、余計な事物も多すぎます。必要の無い人名がたくさん出てきますし、モルモルという猫が出てくるのに、関係ない別の猫の話を入れたりしていますよね。こういうことをすると読む方としても混乱しますし、そもそも余計なことを書いている時間はないはずです。
 実際この作品は、肝心の悪魔については具体的なことを書けずに終わっていますよね。もっと手早く主人公と悪魔を出会わせて、主人公と悪魔とのやりとりや、悪夢を星に変えて空に上げる様などの描写に力を入れた方がいいはずです。

 あと、月に関しての話ですけど、月は新月→三日月→上弦→満月→下弦→残月→新月と相が変わります。三日月というのは狭義にはその名の通り新月から三日目の月という意味で、広義には新月から上弦の月の間の月を指します。下弦側で言うところの三日月みたいなのは、残月とか有明月とか暁月などと言います。この月は夜明け頃に昇ります。また、上弦・下弦というのは、狭義には半月のことを指しますけど、弓状に欠けた月を全部指すことも多いですね。
 なお、満月はだいたい18時に昇り、24時に南中、6時に沈みます。新月は6時に昇って12時に南中、18時に沈む。これを基準に1日1時間ずつずらしていくと、どの相の月がいつ昇っていつ南中し、いつ沈むかをおおざっぱに割り出せます。たとえば三日月だったら、新月からプラス3時間すればいいわけですね。
 こうした知識を入れておくと、とっさのときのネタ作りにいろいろ便利です。たとえばこの作品の場合、主人公が真夜中にふと目を覚まして窓の外を見たら、三日月が夜空高く輝いていた、などと書き出してみるとか。しかし、三日月は本来、夜には沈む月で、真夜中に南中しているはずがありません。真夜中に南中するのは満月か、それに近い相の月です。実は三日月の夜には、本物の月の女神が仕事を終え、みんなが寝静まったとき、もうひとつの「悪魔の月」が夜空に輝き、仕事を始めるのでした……などとすれば、設定もシンプルになりますし、なかなか面白い感じになりませんかね? でまあ、主人公は真夜中の夜空のことなんか知らないので、悪魔の月を本物の月と勘違いして、月の女神に会いに行こうとする、などとすれば、インスタントなわりには良さそうに見える設定のできあがり、というわけです。
   投稿日 : 2017/01/16 22:20
   投稿者  : ひつじ使い
読ませていただきました。
語り手の立ち位置が面白く、世界観がよく出せているように思いました。
冒頭も読んでいてとても面白かったのですが、家の外に出るまでが長いというのは僕も感じました。
一ヶ所「ネッラ」という言葉が混じっていましたが、ここは「レネ」の誤りでしょうか。
これからも頑張ってください。
   投稿日 : 2017/01/18 18:38
   投稿者  : ペガサス
涼格朱銀様

拙作をお読みいただきどうもありがとうございます。

感に入るとはまさにこのことですね! 正しい知識をご教授いただきとてもありがたいです。
「幸福な悪魔」と出てきて、「幸福」という相反するキーワードになかば焦って書き出したので、
何をどうするべきなのか分からないままに執筆し終わって、
本当に最後にしか悪魔が出ずに、しかもあいまいになった未熟さが出ています。しっかりご指摘いただけてうれしいです。
月のめぐりに関しても以前からケルト女性の月のヘカテー女神信仰に興味があって調べてあったはずが、
自分の知識がまだまだうわべだけで甘かったことを知りました。もっとよく調べてみようとおもいます。
この作品の日がちょうど半月が明るかったのもあってキーワードに沿って出したのですが、まだ浅すぎましたね。
「な」の点は恥ずかしながら盲点でした。このキーワードだと、悪魔が幸福な話を作るべきでしたね。今更それを知りました。
このトレーニングサイトは修行にはなるので最近使い始めているのですが、まだまだ鍛錬が足りませんね。
ご指摘いただいたとおり、悪魔が出るまで考えながら書いてはいましたが、レネが月を見て夜を過ごすまったりとした時間も楽しみたかったので長くなりました。
確かに悪魔がようやく最後に出番があって勝つよう方法が思い浮かんだときには、もう残りわずかになっていて、それまでの全てが前置きのようになってしまったのは力不足でした。
涼格様のおっしゃるとおり、いろいろと試しながらトレーニングしてみようと思います。
たくさんのアドバイスをいただきどうもありがとうございました。
   投稿日 : 2017/01/19 20:43
   投稿者  : ペガサス
ひつじ使い様

拙作をお読みいただきどうもありがとうございます。
世界観が出ているとおっしゃっていただけてとてもうれしいです。その日の月がとても印象的だったので。
語り部に関しては立ち位置がとてもあいまいな感じになりました。

ネッラに関しては、お察しのとおりレネの間違えです。申し訳ないです。
なぜなのかの蛇足説明をいたしますと……。
執筆しているさなか、ポール・ポッツの「time say good bey」と「サド侯爵夫人(ルネ)」が同時に脳裏におぼろげに流れ浮かんでいて、
主人公が夫人と似た名前のレネになったことと、ちょうどポッツ氏の歌が頭のなかで最高潮を迎えたところで、名前までネッラになっていたみたいです。
それでネッライコール深い(知識が間違っていなければ)、イコール深夜、それでその日は欠けた月の割りに明るかった記憶……。
ということで夜のお話、そんなわけのわからない脳内経路で出来上がった物語。
主人公の名前を間違えているというのはかなりいたいケアレスミスです。
しかし、今調べてみたところ歌で「ネッラ」は言っていませんでした。一時間の魔力といえども、私の脳裏回路はどうなっているのか。
しっかりと素敵な作品を隙なく作れるようまた修行を積みます。
どうもありがとうございました。
   投稿日 : 2017/01/19 21:26
   投稿者  : てこてこ
ファンタジーで可愛らしい雰囲気が良いですね。世界観も言葉の選び方も綺麗で読み易かったです。
ひとつだけ気になったのが、文体がしゃべり口調、ですます口調やだ、である口調ところころ変わるのに違和感を感じてしまいました。どれかに統一される方がさらにまとまりがあって良いと思います。
個人的にこういった話好きなので、また読みたいです^^
   投稿日 : 2017/03/14 21:35
名前
感想

- WEB PATIO -

(管理:普津沢)






(スパム対策のツールを設置しました)