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   『見えるセカイ』

         投稿者 : 光太


いつしか有馬勝利は一人で過ごすことが普通となっていた。
「友達と遊んで来る」
そう言って有馬は外へ出たが、特に行く当てがあるわけではなかった。
有馬が病気になり、死に掛けてから、両親は一人息子である彼を明らかに心配するようになっていたのを肌で感じていた為だ。
そのうえ、友達がいないとなれば、余計に心配させてしまうのは流石に有馬でもわかっていた。
嘗て有馬には友達がいた。
しかし、距離を取り始めれば、その溝を埋めるのは不器用な有馬には出来なかった。
何よりまた同じ結果になってしまうかもと考えれば、輪の中に入ろうと気持ちも次第に消えていった。
少しだけ普段よりたくさん歩き、公園に辿り着いた。そこには有馬以外誰もいなかった。
しんとした静寂に包まれながら、有馬は一人ブランコに乗った。きいとブランコが音を立てる。
本でも持ってくればよかったな、と思っていたときだった。本を読むのが好きになっていた。本は有馬を別の世界に連れて行ってくれる。
手持ち無沙汰な有馬は無意識に、ポケットの中に手を入れていた。固い感触が、有馬の気持ちを落ち着かせてくれる。
勝利という名前を持っているのに、有馬は名前負けをしているのがよくわかっている。
「一人なの?」
そこに声が掛けられ、慌てて有馬はポケットから手を出した。
「うん」
「一人だと危ないよ。だんだん暗くなるし」
「うん」
聞く耳を持たないと思ったのだろう。
少年が腰に手を当てた。有馬と同じくらいの小学生の少年だ。
「帰りたくないの?」
その言葉に、有馬はこくりと頷いた。
「暗くなる前までなら一緒に遊んでもいいよ」
「ほんと?」
ぱっと顔を思わず上げていた。
あ、でも、と有馬は思う。
僕と一緒にいるとこいつも死んだ人が見えるようになってしまうかもしれない。
心霊スポットと呼ばれる今は朽ち果てた旅館にに遊び半分で友達と行ったとき、友達も死者が見えるようになってしまった。あの死者を見て恐怖に引き攣った顔を有馬は忘れられない。
死者が見える事を話しても平気だった友達だった。
しかし、実際死者が見えれば、態度は掌を返したように冷たく、そして有馬に対して恐怖を隠さなくなった。
自然、有馬の周囲には人がいなくなっていった。
あの友達から誘ったのに。有馬はやめておこうとずっと言ったのに。
その友達のそれから正面から見ていない。
「行ってみようぜ、そこならいっぱいいるだろ?」
「俺も見えるかもしれないし、そしたらお前が嘘つきじゃないって証明してやるから」
何か有馬は見える人なのだと何故か周囲には知られていた。
立て続けに言われた言葉を信じたかったから、頷いた。本当はわざわざ死者を見に行きたくなんてなかったのに。
「有馬と話しちゃ駄目だぜ。呪われるから」
そんな言葉がこそこそと言われているのを聞いた事がある。
目の前が真っ暗にに塗り潰されたかのようだった。
最近の出来事だ。
ふと、その事を思い出していると少年が「遊ぼうぜ。帰りたくないんだろ。その代わり暗くなる前までだぜ」とそう取りなすように言った。
「うん」
声が小さくなってしまうのは仕方がない。
「かくれんぼはどう?俺、かくれんぼ上手いんだぜ」
「そうなのか?」
人との接触は出来るだけ避けた方がいいと思っていた。
しかし、かくれんぼなら触れたりすることもあまりない。
「よし、決まり!お前が鬼な。場所は公園の中な。50数えるんだぞ。ずるはなし」
「おお、わかった」
久々に人と遊ぶことが出来る。
有馬の心の中は浮き立った。
「いーち、にーい、さーん」
目を掌で覆い、50まで数を大きく数える。その間にあの少年は隠れる場所を探しているだろう。
「よんじゅーく、ごーじゅう」
有馬は50まで数を数え終わると、掌を離した。
何処かにあの少年が隠れている筈だ。何処に隠れているのだろう。隠れるとしたら、木の影や木の上だろうか。遊具が幾つかあるが、明らかに隠れる場所がないブランコや滑り台やジャングルジムだ。
有馬は公園内に幾つかある木を探り始めた。
しかし、あの少年が自分で言っていたように隠れるのが上手いらしい。
なかなか見つけられない。10分くらい探していたが、音を上げてしまった。
「何処だよ」
「こっちこっち」
見つけれなかった有馬を嘲笑うかのように、木々の中から少年が顔を出した。
顔は笑っている。
「俺、上手いって言ったろ?」
「君!」
突然野太い声が響き渡る。
「こんなところで何してるんだ」
険がある声に驚いてしまう。
公園は誰が来てもいい場所の筈だ。咎められる必要がない。
「かくれんぼをしてて」
50歳くらいのその男は、早くこの場所を出ろとばかりに有馬の腕を引っ張った。
「ここでこの前不審者が出たんだ。この場所はいない方がいい」
「そうなんですか。じゃあ、帰ります。帰るぞ、早く来い」
少年は呼び掛けたが、少年の足は進まない。
笑っていたその顔が無表情になっている。
「親はどうしてこんなところへ来させたんだ。子供が一人死んでるんだぞ」
ぶつぶつ男は言う。
「え?」
死者が見え始めてから、有馬は死に敏感になっていた。
不味いことを言ってしまった、と男が口をもごもごと動かした。
それなら余計にこの場所を出た方がいいだろうと思い、「早く来い!」と少年を促す。
が、少年は悲しそうな顔をして、その場から動かない。
「何で来ないんだよ?危ないって」
有馬には意味がわからなかった。
「友達は一人か?」
「はい」
「じゃあ、俺が見つけて来るから、そこにいなさい」
見つけるも何も公園の中にいる、とそう有馬は言おうとした。
そして、気付いた。
もう日が暮れかけている。オレンジ色に包まれたその公園内では遊具や木に影が出来ている。
しかし、少年には影がない。見たらすぐわかる筈の事実を見落としていた。
ぞわりと背中に走ったのは何だったのだろう。
有馬は理解した。
冷えた指先を口元へと持っていく。爪先を噛めば、少しだけ落ち着いてきた。
しかし、ざっと自分の血の気が引いていくのがわかった。
「全くどっちの親も何考えてるんだ」
男がぶつぶつ文句を言いながら、木々の中を探し回る。
葉を掻き分けるがさがさという音がやたら響いて聞こえて来る。そんな音、さっきはしなかった。
「いないぞ、帰ったんじゃないか」
その男の言葉の合間に、少年の言葉が次々に耳に届いて来る。
少し自嘲じみた声だった。
「だから早く帰れって言ったろ。俺みたいになっちゃうかもしれないからさ」
「俺を殺した奴、未だ捕まってないんだ」
「だから、俺はここでそいつが現れるのを待ってるんだ」
「だって俺はあいつの顔を覚えてるから」
その少年は何故か酷く優しく笑っていた。まるで、身内に向けるかのように優しく、そして大人びた笑顔だった。
同学年がそんな笑顔をするのを、有馬は見た事がない。
その途端、有馬はぱっと家までの道を駆け出していた。
男が制止する声が聞こえたが、振り切った。
何故だかわからない。
しかし、有馬の頰に流れるものがあった。胸が苦しい。
それでも、有馬は胸にそれを抱え込んだまま、誰にも話をしなかった。

有馬が遊んでいたその公園で少年が一人誰かに殺されたのだと後で聞いた。
その公園で後日、一人の大柄な男が自殺したのだとも聞いた。


✳︎✳︎✳︎


時間はゆるりと流れ、有馬は中学生となった。
検診を受ける為に、有馬は慣れた道を歩いていた。
その途中、有馬はおかっぱ頭の少女が電信柱に立っているのを見掛けた。
ほぼ毎日、有馬はその死者を見掛けるが、無視していた。
しかし、彼女は有馬が死者を見えることを知っているのか、見掛けたら手を振って来る。何が嬉しいのか、にこりと笑いながら。
有馬はそんな少女をやはり無視した。
普段は病院に母親が仕事を早目に切り上げて、車で連れてってくれるが、今回は仕事を切り上げるのは難しいらしく、「ごめんね、今回は1人で行ってね」とメールがあった。
母親は以前夜勤もある工場の仕事についていたが、そこからスーパーの仕事に変えた。忙しさは前と違い、そこまでないようだったが、たまにこういう事がある。
小学生のとき、病気に犯された有馬の心臓は一時止まったのだと言う。診断書には確かに心肺停止と書かれている。それから、有馬の世界には死者がいる。
母親は必ず三ヶ月に一度の定期検診を運動部に入りたいと言った有馬に義務付けた。友達を作り、小学生と同じ一人きりの生活を送りたくなかった有馬はその言葉に反論する事なく、頷いた。
中学校では同じ学区だった子供たちとは上手くクラスがばらばらになった為か、小学校のときのように周囲が有馬を避ける事はなくなっていた。周囲にも馴染んでいるように思う。サッカー部にも入り、小学校のときのイメージを変えたのもあるかもしれない。
しかし、有馬は小学校のときから身に付けているお守りを手放す事は出来なかった。
気付けば、有馬は総合病院の前に来ていた。
有馬は病院が好きではなかった。病院には死が満ち溢れている。だからこそ、死者が群れている。
病院の入り口には死者が行き交い、病院内にも当然死者が多い。
胡乱な目をした死者が有馬を見てくるが、有馬は気に掛けずに受付へと向かった。
受付を済んだ後、昔から馴染みの加藤という看護師がそんな有馬に声を掛けた。
「定期検診の時期だったのね。元気にやってる?サッカーは頑張ってる?」
有馬は普段だったら直ぐに加藤の前で出る笑顔が作れなかった。
顔が強ばるのがわかった。
それでも、「はい」と小さな声で答えた。
加藤はその言葉ににこりと笑った。昔と変わらない若さを感じる笑みだった。胸元には、加藤麻実と書かれた名札が付いている。
「じゃあ、また後でね」
その加藤が廊下を歩き出した後、有馬は詰めていた息を一息吐き、受付の前にある椅子へと腰掛けた。
人の声の他に、松葉杖の音、車椅子の音、台車が運ばれる音。色々な音が混ざって聞こえてくる。
ぐっと有馬は目を瞑った。
「有馬勝利くん」
そこへ、受付から名前を呼ばれ、有馬は目を開いた。
一通りの検査を終え、最後に渡辺という医師の元へと通された。
渡辺の元へと顔を出すと、馴染みの医師はにこやかに笑った。
「久し振りだね。元気だったかな?」
「はい」
「もしかしてまた背が伸びたかな?この時期の子は伸びるから」
「5ミリくらいです」
「へえ。羨ましい。私はもう縮むばかりだから」
渡辺は気付けば、髪に白いものばかりが目立つようになった。
皺も大分増えた。
「特に問題はないよ。まあ、君は体調管理もしっかりしているみたいだし、学校の検診だけで大丈夫だと思うけど、また三カ月後に来るのかな?」
「はい」
「そっか。じゃあ、予定を見るね。次回は、そうだな。10月の18日でどうかな?」
パソコンの画面にふと渡辺の目が向けられる。
どうやらスケジュールをチェックしているらしい。
「了解です」
また部活を休まないといけない。嫌だったが、部活をする条件が定期検診なのだ。諦めるしかない。母親が不安になってしまう。
「多分未だ私は働いていると思うんだけどね。そろそろ隠居を考えてるんだ。もしかしたら他の医者が君のことを見るかもしれない。ほら、私はじじいだろ?」
目を細めてパソコンの画面を見ていた渡辺の目が、有馬にさっと向けられた。
「そうなんですか」
「医者が少ないからね。私は未だ働いてるが、年には勝てないからね。君の若さが羨ましいよ」
医者が一回目を閉じた。
そして、目を開けたときには少なからずの痛みが覗いていた。
「君、覚えてるかな?」
「何ですか?」
「加藤くんだよ。看護師の」
「あ、はい。覚えてます」
言われる事に予想がついていた。
だから、有馬は覚悟を決めていた。
「先日亡くなったんだよ。君も小さな頃からよく話をしていたからね。伝えようかと思って」
「そう、なんですか」
わかっていたことだ。
それでも、ずしりと錘が胸にのしかかったようだ。
「ICUに入って生きて出て来る人は少ないのよ。頑張って生きてね」
彼女はICUから出て来た有馬に、そう優しく言った看護師だった。
「加藤くんは働き者だし、みんなに優しかったからね。もしかしたら亡くなってからもこの病院で働いているかもしれないが」
ははと老医師は乾いた笑いをした。
「じゃあ、有馬くん、また三カ月後にね」
そう軽く渡辺は手を振った。また会えるのかな、と少しだけ有馬は不安になった。この人も死んだりしてないかな、と。

診察室を出れば、加藤に迎えられた。
「勝利くんどうだった?」
名札に加藤と書かれている看護師の胸元しか見れなかった。腕には幾つもの書類がある。顔を上げられない。
彼女はどんな顔をしているのだろうかと。
「別になんとも」
まるで一人言のように小さくしか答えられない。
「そう、良かったわね。また三カ月後に来るの?」
「はい」
「そう。今度も何もなければいいわね。また三カ月後にね」
「はい」
加藤は何の物音もせずに、廊下を歩き出す。
そんな彼女に「あの」と有馬は口を開いた。
もう加藤さん、死んでいますよ。
普段だったら言うことがないその言葉を初めて有馬は言おうとした。
彼女はくるりと振り向いた。
「何でもないです」
会話を周囲の人が聞けば、変な人だと思うだろう。気味が悪いと思われているかもしれない。
それでも、加藤を無視出来なかった。
死者が見え始めた頃、恐ろしくて恐ろしくて病室にいるのが辛かった。
両親は共働きで忙しく、毎日面会に来てくれるものの、時間は限られていた。
早く家に帰りたいと何度訴えただろう。変なものが見えるのだと何度訴えただろう。
しかし、彼らには死者が見えなかった。
次第に訴える事の無意味さを感じ始め、絶望に心が覆われてた頃、加藤はよく暇を見付けては有馬の部屋に寄ってくれた。まるで、加藤こそが母親のようだった。
口にした事はない。それでも、有馬は加藤が好きだった。例え、加藤が一回り以上離れて、家庭を持っていて、自分と変わらない子供がいても。恋愛感情とは違うもしれない。それでも、病院に行こうと思える一端は加藤が病院にいるのを知っているからだ。
「ーーー何か不安な事とかあれば、何でも言ってね」
彼女はいつでも病人の味方になろうとした。もう死者に自分がなっているにも関わらず。
その手が有馬の手を取ろうとした。力づけるように。
しかし、その手は触れ合わなかった。
有馬が手を下に下ろしたからだ。
「はい」
これまで彼女を拒否した事なかったので、彼女は少しだけ目を丸くさせ、少し悲しげに笑ってみせた。
もしかしたら、彼女は自分が死んでいる事に気付いているのかもしれない。自然とうつむいてしまった有馬に優しい声が届いた。
「頑張ってね」
顔がを上げれば、加藤がふと安堵させるかのように優しく笑っていた。
「私と違って勝利くんは生きてるんだから」
自分こそ辛い状況にある筈なのに、有馬の為に優しく笑う加藤は強い人なのだとそう思った。
そして、小学生のときに公園で会った少年の死者を思い出した。
未だ生者と死者の区別がよくつかなかったときの頃だ。あのときはただただ怖かった。殺された死者に初めて会ったからだ。それでも、彼は優しく笑っていた。それも余計に怖かった。
しかし、今になって思う。あの少年も加藤と同じように有馬に頑張って生きて欲しいと思ってあのように笑ったのではないだろうか。
そう思った途端、死者の姿が一気に有馬の目に写り込んできた。
覚束ない足取りで歩く老人、子供の群れの中に混じる少女、夫婦なのか談笑している中年の男女、母親なのか女に抱っこをせがむ幼児。病院内に彼らは溶け込んでいるように見える。
一瞬、有馬は激しい眩暈を感じた。手に汗を気付けばかいていた。
死者の目が一挙に有馬を見た気がした。有馬は死者と話せる者だと悟られてしまったのだ。そんな有馬に死者が注目しないわけがなかった。
その中の一人が有馬の横の座席へと腰かけた。
「なあ、聞こえてるんだろ?見えてんだろ?無視するなよ」
大柄な何かスポーツをしていたであろう死者だ。
耳を塞ぎたかった。目も瞑りたかった。
聞きたくなんてない、見たくなんてない。
代わりにポケットの中にあるお守りをぎゅっと握り込んだ。固い感触が手に心地良い。
「俺の事可哀想だと思わないのかよ!死んでんだぞ!」
大きく口を開けて死者が怒鳴る。
そして、要求をどんどんつきつけて来る。
「お前の身体貸せよ、もっと上手く使ってやるから」
死者と話したくはない。
死へと導かれてしまう。
「辛いことたくさんあったんだろ?もう辛い思いをしなくていいんだ」
だったら、何で身体を奪おうとするんだ?
何故人を道連れにしようとうするんだ?
ーーーー死に誘う死者は、もっと生きたかった人たちだ。
「くそっ。何で俺が死ななくちゃならなかったんだっ。くそっ!くそっ!くそっ!」
そう死者はそ喚き散らした後、頭を抱えて静かになった。
完全に有馬への興味をなくしたらしかった。
いや、こうした死者はしつこいから、また俺のところに来るかもしれないな、とそう思いつつ、受付に呼ばれた有馬はその場を立ち上がった。



小学生のとき、死者を見る事に耐えられなくて、早く眠りたいと両親が使っていた睡眠薬を大量に飲んだ。
望んだ睡魔が訪れ、しばらくした後、有馬はベッドの上で浮かんでいた。
その真下には寝ている自分が見えた。
それを取り囲むのは何人もの死者だ。
「俺の身体だ!」
たくさんの死者が有馬の身体を奪おうと身体に入ろうとする。それを、有馬は他人事のように静かに見ていた。
そこからの記憶はない。
もしかしたらそれは有馬の夢だったかもしれない。
目を開けたそこには心配そうな両親の姿があった。母親は泣いていた。
独特の臭いがこもっている室内に、病室にいるのだとその事が一瞬にしてわかった。
死ぬ事も一瞬考えた。
これからもずっと死者が混じるこの世界で生きていくと考えたときに、躊躇いがないわけがなかった。
それでも、今もこうして心配そうな顔をしている者の姿がある。生きていかなければならない、この世界で。
「勝利!」
両親が有馬の身体を抱き込む。
心配を掛けたのだとその事がわかる。
意識はあるのに、あまり深く考えられない。だから、有馬は何も言う事が出来ず、反応も覚束なかった。
「何があったの?何か嫌なことがあったの?どうして話してくれなかったの?」
両親の目から次々と涙が零れ落ちている。
「ごめんな、仕事で俺がいない事が多いから気付いてあげられなくて」
もう離したくないとばかりに仕事で空ける事が多い両親が強い力で、有馬をぎゅっと抱き締めている。
何かが胸を突き刺す。
気付けば、有馬の目にも涙が溢れていた。



その病院からの帰り道。
あの電信柱の横に、おかっぱ頭の少女が立っている。
有馬を見掛けると、行きと同様、にこりと笑って手を振る。
少女は約半年前に、居眠り運転に巻き込まれ、亡くなった死者なのだと最近知った。名前も聞いた、鈴木佳奈だそうだ。その為なのか、電信柱には小さな花が添えられている。行くときには見なかった花だ。間違いなく誰かが彼女の為に用意した花だ。
心なしか、鈴木はいつもより嬉しそうだった。それはその花に何か関係があるのかはわからない。
その電信柱は鈴木が立っている為、視界に入れたくなくてもどうしても見てしまう。だから、有馬には確信がある。
電信柱の横に花が添えられているのは初めてだ。
それが被害者の家族なのか、加害者なのか何も有馬にはわからない。
ぐっと胸に何かが迫ってくるのを感じた。
有馬は人気がないのを確認した後に、少しだけ手を振った。
この死者が人に害を持つ死者ではないのは、最初からわかっていたのもある。死者を見えるようになって何年か経った。
その有馬に鈴木がぱっと笑顔を綻ばせた。やっと反応返してくれたね、とばかりに。私はここにいるんだよね、とばかりに。

今、この瞬間にも人の命が消えている。それを有馬は知っている。
直ぐ自殺出来るように普段からポケットの中に入っているカッターナイフを、有馬はぎゅっと握り締めた。


<作品のテーマ>

今、この瞬間にも死んでいる人がいるという事を書きたかった生と死の話です。死んでいる人が見える、というようなホラー要素がある話は普段書かないので、新鮮でした。
話の内容的に投稿してもいいのだろうかと思わず、留意事項を確認しました。
全体的に暗い話を読んで頂き、ありがとうございました。
   投稿者  : 光太
すみません、確認不足で文字化けしている部分がありますが、本文には何の影響もありません。
   投稿日 : 2017/01/21 17:45
   投稿者  : 涼格朱銀
 文字化けに関してですが、ひとつだけ読む際に問題な箇所がありますね。

 しかし、有馬の頰に流れるものがあった。胸が苦しい。

 この頰は「頬」の旧字体のようです。

 この作品を読んでいると、情報が全部後出しになっているのが気になります。たとえば、冒頭で少年が声をかけるシーンで、主人公には死者が見える、という設定が提示されるのですけど、その際に、少年のシーンを途中で切って、心霊スポットに行った話を回想で入れていますよね。
 加藤との思い出のシーンも、加藤が作中で重要な位置づけになった直後に後付けで出てきますし、死者に体を乗っ取られるかも、という話が出た直後に、小学生の時に睡眠薬を飲んだ話が、やはり後付けで出てきます。

 作品がこういう形になるのは、作者が書いている途中で「少年には死者が見えるという設定を伝えるために、心霊スポットに行った話でも入れた方がいいかな」などと考え、それを書いてみて、その後、構成を見直さなかった場合に多いです。
 本来だったら今の作品の状態から、もう一度全体の構成を考え直して、読みやすいようにシーンの順番を入れ替えるなどの作業が必要なのですけど、おそらくそれをしていないだろう、ということです。
 この作品のシーンの順序は、作品にとって最適な順序ではなく、作者が書いた順のままになっているわけですね。

 では、どういう構成にすべきか、という案ですけど、まず、冒頭は、心霊スポットに行った話はカットし、主人公には死者が見える、という設定を明かすのは、かくれんぼの後にします。
 で、中学生の話になる前に、主人公が心肺停止状態になり、その後死者が見えるようになったこと、周囲にそのことをいくら言っても信じてもらえなかったこと、看護師の加藤が母親代わりみたいだったことなどを回想するシーンを新たに設けます。
 心霊スポットに行った話が必要なら、ここに持ってきますけど、このエピソードを書くと問題になるのは、霊が見えるようになったお友達のその後です。主人公(と作者)のせいで、主人公と同じく霊が見えるようになったお友達も、主人公と同様に苦しんでいるはずですから、それについてもちゃんと描くのが作者としての義務だと私は思います。主人公の苦しみにだけスポットを当てて、同様に苦しんでいるはずのお友達を放置するのであれば、死者にスポットを当てようとするこの作品のテーマが薄っぺらいものに見えてしまうと私は思うのです。結局作者だって、作品の都合で不幸にした人物をないがしろにしているじゃないか、と。なので、このエピソードを書くなら、お友達のその後もちゃんとフォローすべきですし、そこまで手が回らないならこのエピソードはカットした方がいいでしょう。
 ただ、死者がたくさんいるように、死者が見える人も主人公一人じゃない、ということを示すのは、作品のテーマには合致しているように思います。作者が制御しきれるのであれば、書いた方が作品が豊かになるとは思いますね。
 また、睡眠薬を飲んだ話を入れるなら、やはりこの回想の際に入れたいですけど、冗長になりそうだったらカットします。そもそもこの、睡眠薬を飲んだシーンで両親は主人公の言葉をきちんと聞かなかったことを反省しているっぽいのですけど、そのわりには結局、その後も死者が見えるという主人公の話をまともに受け取らなかったことになるので、両親がどうしようもない人物なのか、話として矛盾しているのかのどちらかになってしまいます。このシーンを入れるのであれば、両親がその後、主人公の話を真剣に聞くようになるでしょうし、であれば、精神的なケアがあってもいいはずだと思います。そのケアが主人公にとってプラスになるかどうかはまた別の問題ですけど。ここで、やはり死者が見えるという人物を両親が紹介し、主人公と出会わせれば作品としては幅が出ます。これは先ほどのお友達と同じ理由ですが、お友達と違って、この人物は死者が見える能力の先輩にあたりますから、もっと俯瞰した視点で主人公の立場を見ることができます。主人公の一人称視点で描かれ、視野狭窄気味になっているこの作品にはいいアクセントになると思いますが、あくまで孤独で内向的な作品にしたいというのであれば、こうした雑味は嫌うでしょうね。この辺をどうするかは作者の考えることです。
   投稿日 : 2017/01/22 13:36
   投稿者  : 光太
涼格朱銀様

たくさんのご指摘、ありがとうございます。
まず、文字化けが重大なところで一つありましたね。以前と違い、台湾性のタブレットを使っているのが原因かと思います。すみません、本当に確認不足です。
本当は二つ書いていた話をひとつにまとめたため、このような構成となっています。まとめようとしたためなのか、どうやったらまとめたらいいのか正直わからなくなりました。言われた通り、話を最後にまとめてから見直しをしていません。自分の未熟さが文字となって文章に表れているようですごく恥ずかしいです。
丁寧にご指摘、またアドバイスを頂き、本当にありがとうございます。
   投稿日 : 2017/01/25 13:55
   投稿者  : ひつじ使い
読ませていただきました。
内容は良かったように思います。興味が失せずに最後まで食い入るように読ませていただきましたから。
ただ文章の方で少し粗さがある印象を受けました。もしされてないようでしたら、一度はじめからおわりまでを音読するなどしてみてはいかがでしょうか。
ストーリーにとても読み応えがあり良かったです。
これからも頑張ってください。
   投稿日 : 2017/01/25 18:58
   投稿者  : ペガサス
作品を拝読させていただきました。

深い意味を持った作品で一気に最後まで読み終わっていました。
特にそれぞれの死者の持つ感情の違いがしっかりと書き分けられていたと思います。
ただ、「あなたは生きているんだから」という加藤さんの言葉が唐突すぎたのではという印象です。
主人公も加藤さん本人も自身の現状を分かっているのはしっかりと描かれていたのですが、
もう少し加藤さんがその言動に至るまでのクッションをおいてくれたら読む上で滑らかになったと思います。
例えば下手な例になって申し訳ないのですが、
「加藤さんはふと寂しげな微笑みを浮かべて生のなかにいる彼を見て、院内を静かに一度見渡した。その横顔はこれまで慣れ親しんできた場所に対する懐古的な表情が掠める。彼女は再び彼を見つめると優しげな微笑をたたえ、そして言った。」
というように少しずつ加藤さんのせりふに行き着くまでの描写か何かがあるといいのではと個人的に思いました。出すぎた例文でごめんなさい。
気になる部分があったのですが、「てをには」の使い方で何箇所か脳裏で自己変換して読んでいた箇所があります。
その部分を変えると滞りなく読めると思います。
全体的に分かりやすかったので読みやすかったし、悲哀を感じもしましたが、登場人物の優しさに触れることのできた作品でした。その部分がそのまま主人公の感じた感覚として受け取ることが出来ているのだと思います。
作者様の伝えたいと思っている部分がしっかり伝わる作品だと思います。
ホラー要素は難しいですよね。しかししっかり出ています。書きなれないとおっしゃっていたからか、優しさと冷静さとホラー要素がちょうどいい感じのバランスを保っていて、読み手としてもどこか安心して読めました。
   投稿日 : 2017/01/30 06:34
   投稿者  : 光太
ひつじ使い様
いつも感想頂き、ありがとうございます。
内容良かったですか?構成に対して反省していたので、そう言って頂けると励みになります。
音読は今まで自分の作品でした事がありません。ひつじ使い様はされているのでしょうか?自分の話を音読するのはなんだかすごく恥ずかしそうですが、次回からやろうと思います。
本当にありがとうございます。
   投稿日 : 2017/01/31 07:24
   投稿者  : 光太
ペガサス様
感想ありがとうございます。
加藤さんの台詞は確かに唐突だったかもしれません。自分の中にその台詞が至る間での過程はあるのですが、書いてませんね。最後の読み直しが明らかに足りてない事を反省しています。いえいえ、例文まで出して頂き、ありがとうございます。
文章がおかしいということですね。ひつじ使い様がアドバイスして下さったように次回からチェックを兼ねて音読しようと思います。
今までこちらでのさせてもらった話の中で一番文章や構成に反省点が多く、後になって正直掲示板にのせるんじゃなかったと一番反省した話なので、安心して読めたというお言葉嬉しいです。
本当にありがたいお言葉をたくさん、ありがとうございます。
   投稿日 : 2017/01/31 07:48
   投稿者  : ひつじ使い
光太様

内容はすごく良かったですよ。とても興味を持って読むことができました。
音読の方ですが、僕の場合ですと「よりよい文章にする」という目的で必ず1回はするようにしています。声に出すことで「あれ、日常では絶対にこんな言い回しはしないな」と感覚に訴えてくるような箇所を発見できますし、「てにをは」というんでしょうか、こういう助詞なんかでも違和感のあるところを拾い上げることができます。こういうのって実際に声に出すことで、かなり見つけやすくなると思いますよ。文章のリズムがよりよくなるといったメリットなどもありますし。
これからも頑張ってください。
   投稿日 : 2017/01/31 22:31
   投稿者  : 光太
ひつじ使い様
お返事ありがとうございます。
やはり文章を書かれている方は向上の為に工夫されているのでしすね。参考になります。
次回から音読します。
本当に丁寧にありがとうございます。
   投稿日 : 2017/02/01 11:28
   投稿者  : てこてこ
こういった設定はよく見かけますが、最後まで面白く読み進められました^^
ただ、複数のエピソードをひとまず詰め込んだ感があるので、もう少し順序立てた方が話も通り易くなりますし、もっと面白くなるんじゃないかな、というので勿体なく感じてしまいました。
あと、ホラー要素というより、全体的に生と死を扱った人情味溢れる話だと思うので、そこももっと強く強調しても良いんじゃないかなとも感じました。
個人的な意見なので、参考になれば幸いです。失礼しました。
   投稿日 : 2017/03/14 21:37
   投稿者  : 光太
てこてこ様
感想ありがとうございます。
返事が大変遅くなりました!申し訳ありません。
エピソードもう少し削った方がいいかなとは書いたときに思いましたが、どうしても削りたくなくてこうなりました。ご指摘されるように、順序立てるべきでしたが、本当にどう順序立てたらいいかさっぱりわからなかったです。
また、人情味溢れる話と言って頂き、嬉しかったです。ただ、確かに強調はされていいかもしれません。
感想を書くのも、返事をするのもとても苦手で、上手に言えませんが、本当に感想、アドバイスをありがとうございます。
   投稿日 : 2017/03/29 17:38
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感想

- WEB PATIO -

(管理:普津沢)






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