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   『先生、あのね』

         投稿者 : 未詳化石


先生、お久しぶりです。こんにちは。
もう二、三年ぶりくらいにはなりますでしょうね。お元気ですか?私は変わらず元気です。
まことに勝手ではありますが、なんだか急にあの頃のように先生に話を聞いてもらいたくなったので、
今こうして文を書いています。
こんな風なものを今後も不定期に先生に送るかも知れませんので、その時はどうかよろしくお願いします。
このあいだ、少しぎょっとしたことがありました。
学校へ向かう道を行く私の少し先を、ランドセルが歩いていたのです。
真新しく綺麗な赤いランドセルから手足が生えて、よたよた、ふらふらとしながら一生懸命に歩いていたのです。
それを見たときには本当にびっくりしてしまいました。ランドセルも自分で歩き始める時代になってしまったのかと、奇天烈な考えが浮かぶほどに驚いたのです。
けれどもだんだん距離が近付いてくると、そうではないことに気が付きました。ええ、先生ならもうお分かりでしょう。
ランドセルが歩いていたのではなく、今年新しく一年生になった子が、ランドセルを背負って歩いていたのです。
それを見てほほえましい気持ちになるのと同時に、そういえば私も初めてランドセルを背負ったとき、親や親戚から「まるでランドセルが歩いているようだ」と笑われたことがあったなあと思い出しました。
あの頃の私はそう言われるとムッとなってへそを曲げたものですが、こうして見ていると確かに
「ランドセルが歩いている」という言葉の通りで、頬を膨らませてそっぽを向いたあの頃のちいさな私に
「そういわれたって仕方ないよ。だって本当にそうなんだから」と、言ってやりたくなりました。
なんだか私も年をとったなあと、先生に笑われそうなことをその日私は思ったのです。
今日はこの辺で。それでは、また。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
花が散って若葉が生えて、草木は夏へ向かう準備を着々と進めているようで、
辺りが少しずつ賑やかくなってきています。
この頃になるとやってくる『家庭訪問』。私はこれが大嫌いでありました。
ご存知の通り、あの頃の私はほとんどの宿題をやってくる事がなく、その上怒られても反省もまったくせず、
言い訳はいつも決まって「やってきたけど家に忘れました!」
とまあ、こんな風な悪ガキでしたから、家庭訪問のときに何を言われるのかはもう決まっていて、
そして母から叱られることだって決まっていたようなものだったので、自業自得と言われればそれまでですが、
家庭訪問が大嫌いでした。
もし今も家庭訪問があったら相変わらず宿題がどうだのと同じことを言われているんじゃないか、と考えているかもしれませんがご安心ください。宿題も提出物も、ちゃんとしっかりやっていて、テストも赤点はありませんよ。
けれど、もし宿題をちゃんとやっていたとしても家庭訪問が好きだなんてことは絶対になかったでしょうね。
悪いことをした憶えもなければ、良い行いをした憶えもないわけで、
結局何を言われるかわかったものではありませんから。
なんにしても子供達の願いは一つ。怒られることがありませんように。ですよね。
では、また。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
この時期は雨が続きますね。じめじめ、じめじめしていて、お日様がちょいと顔を出したかと思えばすぐに隠れて、
またじめじめ。通学の際に使う合羽も乾ききらず、袖の辺りがまだ濡れたままで着る時のなんと気色の悪いことか。
気が滅入ってきます。
けれども、雨が嫌い、というわけではないんです。あの静かな雰囲気や、雨の日の匂いに包まれるのは、
いつもとは違うのだと感じさせてくれますし、雨でじわりと滲んだような景色を見ていると
魚達はいつもこんな世界を見ているのだろうか などと、普段なら考え付かないようなことを思ったりもして、
それもまた楽しいことです。
こうしてみると、私はむしろ雨が好きであるともいえるでしょうね。
ただそれが延々と続くのが嫌なんです。好きな食べ物だって毎日食べていたら嫌になってくるでしょう?
それと同じです。たまにあるから、好きなんです。
それでは、また。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
突然ではありますが、私はカタツムリが好きです。目ん玉の飛び出た奇っ怪な風貌の癖に、
気の抜けるようなとぼけた顔をして、ゆっくりのんびりと動くあのカタツムリが好きなのです。
あいつのあの周りなんか気にしないで、自分のペースを保っている余裕のある生き方に私は憧れます。
雨が降った日に、どこからともなく現れるあいつをじぃっと見つめていると
「どうしてお前は、そんなに急いでいるのだい?」
と問いかけられているようにも感じて、そのたびに私は はっと息を飲むのでした。
言いたいことが上手くまとまらなくて自分でもよく分からないんですが、
カタツムリが短い一生を味わうようにゆっくりと生きていて何の問題もないのだから、
カタツムリよりも何倍も長く生きられる私達がこんなに急ぐ必要なんて無いんじゃないか、
なんて考えてしまうのです。
つまるところ多分、私達も何かに焦ることなくカタツムリのようにのんびり生きたって良いんじゃないか。
そう生きてみたいなってそんな話です。先生はどうおもいますか。
何もかも忘れて、カタツムリをじっと見つめるような意味のない日が一日くらいあったっていいとは思いませんか。
それでは、また。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
やっと雨が上がったと思えば、もう夏がきました。茹だるような暑さ、揺らめく陽炎、滝のように流れる汗。
一年で一番つらいときだ と私は思います。
つらいのは、暑さだけのせいではありません。虫です。
虫たちの声やら存在感やら何やらがうるさくて鬱陶しくて、それもまたつらいのです。
特につらいのは蚊でしょうか。まったく蚊の奴ほど厄介なものは他にいないと思います。
苦労して寝付けたところに奴がやってくるともう台無しです。耳元へやってきて不快な音で叩き起こすわ、
無視を決め込めば好き勝手に血を吸ってひどいかゆみを引き起こすわ何一つ良いことがありません。
なぜあいつの羽音はよく聞こえてくるのでしょう。どんなに気持ちよく寝ていてもたちまち目が覚めてしまうのだから、
目覚まし時計の音を奴の羽音にすれば確実に目覚めることができるんじゃないかなあ、なんて思います。
どんな寝坊助でも目が覚める目覚まし時計!なんて。けっこう売れるんじゃないでしょうか。
寝覚めは最悪かもしれませんがね。
今日はここまで。それではまた。





先生、お元気ですか。私は、元気です。
いつも同じ言葉から始めるので、またか。と思われているかもしれませんが、ごめんなさい。
どうしても始めの言葉が他に思いつかないのです。許してください。
それはさておき、季節や時間はこんなにも早く過ぎ行くものだったでしょうか。
少し前まで暑い暑いと言っていたのにもう秋です。
食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋…などと色々言われる秋ですが、私は秋といったらもちろん読書の秋です。
まあ、秋だからなんて言わずとも読書はしていますが。
ふと思うわけですが図書室や図書館はなんていいところでなのでしょう。何百、何千も見渡す限りに本があって、
しかもその本たちを自由に読んで良いなんてまったく夢のようではありませんか。
それに人が多くてもそれほどうるさくなったりしませんし、これ以上ないくらいに居心地が良いところです。
あそこに住めたらどんなに幸せでしょう。
本が好きな人々が集まって住む図書館都市。住む人が増える度に本も増えて図書館は大きくなっていく…とか、中々素敵だと思いませんか?
もしもそんな場所ができたなら……とりあえず、火気厳禁でしょうね。先生もこれから寒いところで本を読むときは、ストーブなどとの距離に気をつけてください。
今日はこの辺で。では、また。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
夜、眠くなってくる頃の部屋の空気がきぃんとして透き通ったように冷たくなって、吸い込んだ後も少しのあいだだけ肺の中で自己主張するようになりました。くるくる回って、ここにいるぞと訴えて、
それからじんわりと体の温度に馴染みます。それを感じるとなんだかとても切なく寂しくて、誰かと寄り添っていたいと思ってしまうのです。
寒くなってくると無性に物悲しい気持ちになるのは何故でしょう。
一人でいると凍え死んでしまうから誰かと一緒にいて温まろう と体が考えて、無意識に寂しいという気持ちを発生させているのでしょうか。
それとも体が冷たくなるのは死が近いことだと知っていて、
一人ぼっちで死にたくないから寂しいと誰かといたいと思うのでしょうか。
考えてみてもさっぱり分かりません。世界というのは本当に謎や不思議でいっぱいです。
こうして身近な不思議を相手にしてあれこれ考えていますがきっと一生かけても私が理解出来るのはほんの一握りのことだけなのでしょう。それでも私は自分なりに世界を見つめて、世界を愛していこうと思います。
よくわからないことになってきたので今日はこの辺で。ではまた。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
随分と寒い日が続き、ここらでは珍しく雪が降りましたね。そして、薄くではありますが積もったりもしましたね。
もう雪だるまを作ったりしてはしゃぐ年頃ではないとは思っていますが、
それでも雪を見ているとその物珍しさで心が躍ります。
家の屋根や地面が粉砂糖をまぶしたようになって、太陽の光できらきらと輝いている光景のその幻想的な美しさといったら言葉にできないほどに見事でした。
けれども本当に薄く積もった雪でしたから、それから三時間もしないうちに雪はほとんど溶けてしまい、
夢のような魔法のような時間はあっという間に終わってしまったのでありました。
もう少しだけ雪が身近であったらなあと考えずにはいられませんでしたが、あまり多くても困り者らしいので
雪に焦がれていられる今のままが一番なんでしょうか。
それでもここらだって十分に寒いのだから、年に一度降り積もるくらいしてくれたなら
冬がもう少し楽しいときになるのになあと私は思います。
今日はこの辺で。それではまた。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
つい先日に、暖かい春のにおいがしました。
なんだか埃っぽいような、花の香りでもあるような、あの独特なにおいです。
ふと窓の外を見ると、庭にある梅の木がいつの間にかぽつぽつとつぼみをつけて、花を咲かす日を
今か今かと待っておりました。
太陽の光も優しく、空気すらもまどろんで、意識もぼんやりとする程に、平和で、穏やかな日でした。
まだ遠いと思っていたけれど、気が付いていなかっただけで、もうすぐそこに春は来ていたのだということを
知った日であったのです。
春が早く来ると良いですね。花粉は少し、嫌ですけれど。
それでは、また。




先生、お元気ですか。私は、元気です。
風が吹いても冷たさを感じなくなって、暖かい日も多くなってきました。
梅の花が咲きましたが、桜はまだ先のようですね。もうしばらくすれば、ツクシやタンポポが生えてきたり、
ウグイスの声が何処からか聞こえてきたりして賑やかになるかなと思います。
年が明けて、はや三月。季節は春。まどろんでしまいそうに優しい空気の中に少しだけ切なさが滲むのは、
別れの時期でもあるからでしょうか。
先生、私は三年経った今でも思い出します。楽しかった日々。個性的という言葉が何より似合った賑やかなクラス。そしてそんな私達を纏め上げてくれた先生。
授業を受けて、みんなとはしゃいで、また明日、と手を振りあったあの日のことを、この三年で何度思い返したことでしょう。もう一度あの楽しかった日々に戻りたいと何度思ったことでしょう。
先週に、通っていた学校を無事卒業することができました。私は就職することになって、四月からは社会人です。しっかりやっていけるのか不安で仕方がありません。
ですから、先生。未だ手間のかかる出来の悪い生徒で申し訳ありませんが、
私のことを応援していてくださいますか。たまに思い出すだけでいいんです。それだけで充分ですから。
先生と出会えたこと、先生が担任であったこと、あのクラスで過ごしたこと、本当に幸せでした。
先生のことを私は忘れません。
それでは、まことに勝手ではありますが、今回でこの文を書くことはおわりにさせてもらいます。
今日までお付き合いくださってありがとうございました。縁がありましたら、どこかでまた会いましょう。
さようなら。どうかお元気で。


<作品のテーマ>

中学時代に担任だった先生独自の宿題として、三、四行ほどの日記を書いて毎日提出する。というものがありまして、
その頃のことを懐かしく思いながら、その先生に聞いてもらうような感じで書きました。
私の文章を面白いといってくれた、私が小説を書いてみたいと思うようになったきっかけの人です。先生、あのね。
   投稿者  : こたつのペンギン
はじめまして、作品を拝読しました。
先生に聞いてもらうような感じで、ということでしたので、
私が先生ならどのような思いで聞くのかを考えながら読みました。
最後に楽しかった思い出の話が出てくるのを見て、
それ以前の手紙にも「こんなことがありましたね」「先生はこう言いましたよね」と
何か共通の話があれば、もっと話がふくらんだのかな、と思いました。
短い行数のなかでそれを持ち出すのは難しいので、このままでもいいかもしれませんが。
主人公の気持ち、視点には微笑ましい気持ちになりました。
ありがとうございました。
   投稿日 : 2017/03/13 21:21
   投稿者  : てこてこ
とても温かい気持ちになりました。
手紙が進むごとに移り変わる景色や空気の表現がお見事で、徐々に季節が変わっていくのがとても分かりやすく、そしてキラキラしていて素敵だなと思いました。
話の内容的には普通に手紙を書いているという事で、これはこれで微笑ましくて良いと思いますが、どうしても単調になってしまいますので、何かもうひとつアクセントがあれば良いなと思いました。
季節の変化、つまり時間の経過と共に変わる物って何かしらあると思うので、その人間味溢れる要素を加えたらもっと深くなるんじゃないかなぁ、と。主人公も年頃の女の子なので、先生に気づいて欲しい何かを手紙の文章に隠してみたりなんてしてみても面白いかなと思いました。
そんな訳で、次回も楽しみにしています。
   投稿日 : 2017/03/14 21:48
   投稿者  : 未詳化石
こたつのペンギン様
はじめまし。
もう一度読み返してみると確かに最後にそういう思い出が出てくるのは急なことだなあと思いました。
なんとなく、先生と思い出を語るのは気恥ずかしかったのだと思います。
本当はそういうことも言いたかったけれどちょっと照れくさくて言い出せなくて我慢して、
けれど最後の最後にその我慢ができなくなったというのか…
本当に伝えたい気持ちは隠してしまうけれど、それ以外の感じたことや思ったことは素直に言葉にする
中途半端にそのままの心で生きているちょっと面倒な子。そんな感じでしょうか。
もう少し二人の思い出を詳しくしたほうがよかったですね。
どうもありがとうございました。
   投稿日 : 2017/03/18 12:40
   投稿者  : 未詳化石
てこてこ様
山に囲まれた田舎の育ちですので季節の風景の移り変わりの描写などは割りと得意なようです。
紙のメモにも色々と、例えば「最近あまりセミの抜け殻を見ない。何故だろうと思ったら、簡単なこと。
私が外に出ることが少なくなって、セミの抜け殻を探そうともしていない。それだけだ。」
とか書いてあるので恐らく自然などを題材に書くことはこれからも多いと思われます。
課題は相変わらず淡々としているので色のついた部分を作った方がいいようですね。
気付いて欲しい何か…恋心くらいしか思いつかない貧弱な想像力が恨めしいです…
もっとなにか、なにかこう優しい感じのあれやそれやがあるはずだ…!などと唸りつつ、
次を作る際の参考にしていきます。どうもありがとうございました。
まだまだ頑張ります。
   投稿日 : 2017/03/18 12:48
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(管理:普津沢)






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