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   『心の時流[改訂]』

         投稿者 : 春風


チリン、チリン……。チリン、チリン……。
 一人の侍が指を揺らして風鈴を鳴らせ、昼下がりの浅草に爽快な音が響いている。その侍を尾行する、編笠を被った別の侍が一人。前を行く侍は風鈴を鳴らしながら、屋台がたち並び人だかりができている通りに入った。そして通りの一角の茶店の店先に腰掛ける。後をつけてきた男は侍の隣に座り編笠をとった。すると、何気なくそちらを見やった侍は目を丸くした。
 「虎太郎、久しぶりだなあ」
 男はそういってにこりと笑う。侍は拍子抜けしたように息を吐き、顔をほころばせた。
「彦兵衛じゃねえか……!」
「どうだ、驚いたか」
「いやあ、驚いたよ。まさかお前さんに会うとは……」
 虎太郎はまいった、という風に頭をかいた。彦兵衛は大きく笑い、編笠を足元へ置く。二人の笑い声に、木々のざわめきが重なった。
 堀内彦兵衛と磯部虎太郎は、若き日に道場で稽古をし合った剣友である。酒井一之助というもう一人の仲間とともに、稽古の後に三人でよく飲みに行ったものだ。
 彦兵衛はふと、虎太郎のそばに置かれている風鈴に目をやった。
 「虎太郎、お前、まだその風鈴を持っていたんだな。確か、十一の時に買ってもらったと言ったな」
 そう言われた虎太郎は風鈴を見て頷く。
「ああ。ちょうどこんな、屋台がたくさん並んでいる中に、風鈴屋があったんだよ」
「親の墓参りに行った帰りで、父親の部屋にあった風鈴にそっくりだったものだからつい、欲しくなって一緒にいた叔母に買ってもらったんだったろう?」
「ああ、そういえば、そうだったな」
虎太郎はなぜか曖昧に答え、懐の内側に腕をうずめて青い空を見上げた。
 「そういえば彦さん、お前さん今、どうしているんだ」
 虎太郎が彦兵衛に尋ねてくる。
「実はな、俺は今、道場主の身なのだ」
「何、道場主だと?」
彦兵衛の言葉に、虎太郎はひどく驚いたようだった。そしてしみじみと、
「世の中妙なことがあるもんだな」
 と言う。
「妙とは何だ。お前さんこそ何をしている?」
何気ない問に虎太郎が一瞬表情を変えたのを、彦兵衛は見逃さなかった。しかし虎太郎はすぐに元の顔に戻っていた。
「日本橋の本町にある、大店の用心棒さ」
「ふうん……。それはたいそうなことをしているな」
 彦兵衛はあえて問いたださずにそう答えた。それから、ふいに思い出したことを口にした。
「そういえばお前さん、一之助のことを聞いているか」
「いいや。彦さんは最近、あいつに会ったのかい」
 と虎太郎は聞き返す。
「ああ。何とあいつは今、町奉行所にいるのだ」
 そう言った彦兵衛は、ついさっき虎太郎が見せたあの硬直した顔を、今度ははっきりと見た。
 何だ。虎太郎は、何を隠している……?
 虎太郎が表情をごまかすように、ふいに立ち上がった。
「そうだ。今日は早めに店に戻ってくれと旦那に言われていたのをすっかり忘れてたよ。彦さん、悪いが今日は……」
 彦兵衛ははっとして虎太郎を見上げ、頷き立ち上がる。
「ああ、分かった。気をつけてな」
「会えて良かったぜ」
「俺もだ。またどこかで会おう」
 虎太郎は、本町の何という店にいるのか言わなかった。今になり彦兵衛は、それも気になりだしていた。虎太郎は彦兵衛の分の勘定も済ませ、風鈴を懐に仕舞い出て行く。
 彦兵衛は、少しの間虎太郎の背中をじっと見た。そして、自分の顔が隠れるように編笠を深く被り、虎太郎の背中を再び追って歩き始めた。
 虎太郎は賑やかな通りを出て、人気のない、寺や小さな屋敷が建つ道に入った。前には役人らしい侍が一人歩いている。彦兵衛は虎太郎から少し離れ、足音を立てないようにした。
 ふと、彦兵衛は妙なことに気がついた。虎太郎も、足音を消しているのだ。
 もしや、あの役人の後をつけているのか……?彦兵衛の中で不安が高まった。やはりおかしい。虎太郎が役人を尾行するなど。それもおそらく、町奉行所の役人だ。
 虎太郎が止まった。彦兵衛は急いで寺の門の陰に隠れる。門の陰から覗くと、虎太郎は役人を目で追いながら、刀を抜いたのだ。彦兵衛は思わず声を上げそうになった。
 虎太郎が走り出す。彦兵衛は、少し先の木立に隠れた。
 役人は足音に気付き一瞬止まったと思うと、曲がり角に消えた。彦兵衛は木立の中を役人の姿が見えるところまで進む。虎太郎は曲がり角に差し掛かると勢いをつけ跳んだ。役人が身を屈めそれをかわす。着地した虎太郎は、役人を振り返った。役人は刀を抜く。
 「神妙に致せ」
 役人が言うと、虎太郎は冷淡に笑って役人を見た。
「貴様が俺を探しているのは知っていた。だがお前に、俺を捕らえることは出来ん」
「出来るか出来ないか、確かめてみたらどうだ」
 役人はそう言って刀を構え、続けた。
「火付けで死んだ者たちの顔を思い浮かべておけ」
 彦兵衛はそれを聞き愕然とした。火付けというのは、おそらく三日前に起きた主人と奉公人六人が死んだ、日本橋・一丁目の小間物屋の火事のことだ。虎太郎は相手の首筋を狙い刀を突き出す。役人は横にのけ、気合を発し斜めから大きく斬りかかった。虎太郎はそれを受け、鍔迫り合いになった。二人の刀が触れ合い、こすれる音がかすかに聞こえる。
二人は肩に力を入れ鍔迫り合いのままにらみ合っていたが、やがて役人が鍔を上にはじいて後ろに下がった。が、虎太郎が一瞬速かった。虎太郎は一歩踏み出したかと思うと、役人の胴に刀を深く斬りこませた。彦兵衛は身をのり出した。役人はうめき声をあげる。虎太郎は、斬られて自分の左側にのしかかった役人の体をはねのけ、正面から再び斬った。刀を落す音が響き、役人はその場にくずおれた。
彦兵衛は唾を飲み込んだ。心臓の鼓動が速くなっている。
 虎太郎が何かに気がついたように動きを止めた。彦兵衛は木の後ろに身を隠す。虎太郎は木立を振り返ったようだ。人がいたことを知ったらしい。そして、血振りをすると素早く刀を鞘に収めて走り出した。彦兵衛は追いかけようと木立から出掛かったが、見ていたのが自分だったと知れてはまずい、そう思いその場にとどまった。
 今見聞きした出来事を信じるまでに、彦兵衛はしばらく時間がかかった。まさか虎太郎が……。
 

五日後。
 「彦兵衛、いるか」
 門の外から彦兵衛を呼ぶ声がした。一之助だ。彦兵衛は気が重くなるが、門に出て行った。
 「一之助、今日は非番なのか」
「そうだ。することも無し、お前さんの顔が見たくなってな」
「五日前に会ったばかりだぞ」
 そう言って彦兵衛は小さく笑った。そして一之助に入るように促し、奥の住まいに通した。
 今日は道場を休みにしてあった。彦兵衛は久し振りに、静けさの中で竹林の笹がこすれ合う音をかみしめた。
 障子を開けると百合の花が見える。一之助は縁側に腰掛けてそれを眺めていた。彦兵衛は相変わらず下手な味の茶を入れて一之助の前に置いた。
 「葬儀は、済んだんだな」
彦兵衛が遠慮がちに尋ねると、一之助は顔を曇らせて頷いた。
 「よりによって安部が殺されるとは思わなかった。あいつはこの前の火付けについて、何かつかんでいたのだ」
そうだ。彦兵衛は、虎太郎のことを一之助に話していない。あれから彦兵衛は町奉行所に、偶然通りかかった道に倒れていたことにして、かの役人・安部源七が殺されたことを知らせたのだ。
いつか話さねば。そう思いつつも、彦兵衛は憂鬱な心持になる。しかし、このまま自分一人の胸にこのことを仕舞い込んでいても、どうにもならないことは分かっていた。
「安部どのは、その探索の内容を誰にも言っていなかったのか?」
 と彦兵衛は聞いてみた。一之助は重々しく首を横に振る。
「本当に、なぜ言っていなかったのか……。確かな証拠がなかったから、ひとまず自分で探りを入れてみようと思っていたのかもしれぬ」
 もし安部源七が誰かに言っていたら、どうなっていただろう。虎太郎は、その誰かを殺めたかもしれない。またもしかすると、今、虎太郎のことを一之助も知っていたかもしれない。
 今、自分が一之助に言えば、どうなるのだろう。
 そして翌日、近くの蕎麦屋の亭主に聞き、彦兵衛は突き止めた。虎太郎が、日本橋・本町の日駒屋という扇屋で「磯山源次郎」として用心棒をしていることを。


 その翌朝のこと。彦兵衛が密かに日駒屋を見張っていると、虎太郎は一通の文をしたため日駒屋を出た。彦兵衛はあの時のように編笠を深く被り直し、その後姿を追った。虎太郎は今日も風鈴を指に掛け、チリン、チリン……、と鳴らしていた。
 後をつけ、彦兵衛は驚いた。虎太郎が向かったのは町奉行所だったのだ。
 彦兵衛は建物の陰に身を隠しそこから奉行所の門を覗いた。虎太郎は門まで行き、門番と何か話している。そして懐から文を取り出して門番に手渡し、すぐにもと来た道を歩きはじめた。虎太郎が見えなくなったのを確認すると、彦兵衛はその門番のところに駆け寄った。門番は彦兵衛に気がつくと愛想のいい笑顔を浮かべて礼をした。
 「これは堀内どの」
「いやはや、先だっては世話になり申した。……ところで今の侍は、何の用で?」
「はい、それが、この文を酒井様にお届け願いたいと申されまして」
「何、一之助に……」
 彦兵衛の胸が騒いだ。何かが起こる。彦兵衛は門番から文を受け取り、急いでそれを読んだ。文の最後に、虎太郎の名は書かれていない。太陽が雲に隠れ、彦兵衛の足元がふっと黒くなった。
 その時、門の前に酒井一之助が現れた。
 「彦兵衛!どうしたのだ、こんなところまで」
「一之助、済まぬ。急いでこの文を読み与力の方に知らせてくれ」
 一之助は彦兵衛の様子から、何かが起こったことを悟ったらしい。頷き読み始めた一之助の顔に緊迫感が表れた。
 「これは……。確かなことか」
 一之助の声は高ぶっていた。彦兵衛は頷く。
 「分かった。俺は急いで知らせてくる」
 そう言って門内に入ろうとした一之助の腕を彦兵衛はつかむ。一之助が振り向いた。門番も緊張した様子で成り行きを見ていた。
 「一之助。その文を届けたのは……。虎太郎だ」
「虎太郎が?」
一之助は目を丸くして笑顔を見せかけたが、彦兵衛の振り絞った声と、隠れた太陽のせいで一層暗くなった目に気がついてその表情を引っ込めた。
「……彦さん、その顔は何だ。何があった」
 彦兵衛は一之助の、まだ何も知らない目を見たくなかった。しかし、見ずには打ち明けられぬ。
 「一之助。虎太郎は、その文に書いてある日駒屋の、下手人の中の一人だ」
 一之助は持っていた文を取り落とした。
「安部どのを殺めたのは、虎太郎なのだ」
一瞬、時間が止まったようだった。一之助の息も止まったように見えた。そして一之助は深く息を吐き、彦兵衛を見た。彦兵衛にはその表情から一之助の心を読み取ることが出来なかった。一之助は悲しみなのか怒りなのか諦めなのか分からない、複雑な顔をしていた。一之助は彦兵衛に言う。
「彦兵衛。追いつくまで虎太郎を食い止めていてくれ。いや……俺も今行く」
一之助は地面に落ちた文を拾い上げ、門番に渡して与力への伝言を頼んだ。門番が門内へ駆けて行く。一之助は彦兵衛の方に向き直ると、決心したように言った。
「行こう」
 その落ち着いた低い声と眼差しに、彦兵衛も頷いた。二人は虎太郎が戻っていった、日本橋・本町へと走り出す。太陽は出はせず、雲までが黒くなっていく。
 二人が虎太郎を見つけたのは、虎太郎を追いかけ始めて間もなくであった。二人が虎太郎の姿に気がついた時、ちょうど地面に黒い小さな点が滲んだ。そしてだんだんとその数は増えていき、彦兵衛と一之助の着物を濡らす。しかし彦兵衛は虎太郎の歩いていく背を見ながら、ゆっくりと編笠の紐を解いた。幸い人気はない、ひっそりとした道だった。木が所々に生えてい、右手には静かに時の流れを告げる川がある。その川に、虎太郎の風鈴の音が吸い込まれていく。
 一之助は彦兵衛を見て一度だけ小さく首を縦に振り、彦兵衛を追い越して歩いた。足音は、消していない。そして充分なところまで虎太郎に近づくと止まった。虎太郎も止まった。
 「誰だ」
 虎太郎は振り向かず、低く言った。彦兵衛は、一之助が息を吸ったのが分かった。
 「虎太郎、俺だよ」
 警戒していた虎太郎は後ろから聞こえた声に明るさがあったことに驚いたのだろう、彦兵衛が想像していたよりも素早く振り向いた。そして振り向いて相手の顔を確認した虎太郎の顔は、また彦兵衛の想像とは違うものになっていた。前とは違い、その顔は冷静さを失い、驚き戸惑っていた。そして一歩、後ろに下がった。
 「まさかここで俺に出くわすとは思ってもいなかっただろう」
「……一之助」
「久し振り、だな」
 一之助がそう言った瞬間、虎太郎が刀を抜いた。一之助はそれをよけるように横に回る。彦兵衛からも一之助の表情が見えた。一之助は懐かしそうに虎太郎をまっすぐに見ている。しかしその表情の奥に、言葉では言えないような深い感情を押し込めているのを彦兵衛は感じた。
 一之助は少し、ほんの少し顔をゆがめてこう言った。
 「虎太郎。むやみに思い出に刀を向けるな」
 しかし虎太郎は刀を構えて言う。
「殺りたいなら早く殺れ。一之助」
 一之助はしばらく黙っていたが、やがて短く吐息を漏らした。そして次に発した言葉には、決して顕にしない一之助の感情がこもっていた。
「虎太郎。どうやらお前の中には、思い出というものは無いらしいな」
 また、時間が止まったようだった。一之助の顔からは今までの懐かしさが消えた。そして一之助は刀の柄に手をかけ、それを川の流れのように静かに抜いた。
 「彦兵衛。手を出すなよ」
 彦兵衛は答えなかった。一之助は構わず虎太郎に体を向けた。刀を構えた二人は、じりじりと体を左方向へと移動させていた。
 突如、一之助が気合を発し斜めから斬りこもうとした瞬間、虎太郎は一之助へ風鈴を投げた。一之助の刀に当たったそれは、地面に落ちて無常に砕けた。彦兵衛が衝撃を受けたのも一瞬のこと。思えば今の虎太郎を見たならば、こうなることも必然なのだ。風鈴への思い出も、もはや消えている……。傍らの木のそばにたたずみ見ていることしかできない彦兵衛の胸に、冷たい風が吹き付けたようだった。一之助も一瞬驚き、そのあとすぐに納得したような顔を見せた。
 虎太郎が斬りかかる。虎太郎の刀を一之助の刀が払いのけた。またすぐに斬りかかる。空いた脛を、一之助が浅く斬った。
 その時。一之助の草履の鼻緒が鈍い音を立てて切れ、一之助が体勢を崩した。そこへ、虎太郎の刀の切っ先が鋭く斬りかかった。
 俺も、お前の昔馴染みだ。そして俺にも、お前を斬らねばならぬ訳はある。一之助だけではない。そう思う彦兵衛の体はもう動いている。
 バサッ……。
 虎太郎が小さくうめく。一之助が目を見開き虎太郎と彦兵衛を見上げる。彦兵衛は両手で握った刀を下に向け、その虎太郎の背を、力を込めて見やった。
 「彦……兵衛……」
 虎太郎が言った。刀を落し最後に振り返ったその胴を彦兵衛は、自分の心の内を刀にのせばさりと斬った。
 虎太郎は言葉を発せずに倒れ伏し動かなくなった。
一之助は気配すら感じないほど静かだったが、彦兵衛は一之助がどんな顔をしているのか見なかった。一之助はゆっくりと立ち上がった。彦兵衛は少しの間何も言わず、倒れた虎太郎の横顔を見ていた。表情のないその顔に雨粒が流れ、少しずつ地面へとつたっていく。雨が木の葉に当たり静かに音を立てていた。
 その時、後ろから雨の中を走る十数人の足音が聞こえてきた。彦兵衛と一之助が振り返ると、奉行所の役人達だった。それを見て一之助は我に返ったように背筋を伸ばす。
 「酒井!おぬし、ようやってくれたな」
 与力と思われる人物が一之助に近づき言う。一之助は頭を下げた。
「いえ、私の手柄では……」
 そう言って曇った一之助の声と倒れている虎太郎を見て、与力は何か悟ったらしく言った。
「酒井は、ここにいてよい。日駒屋の捕物はこちらで済ませる」
「はっ。かたじけのうござります」
与力は頷くと、同心たちを引き連れ本町に向かって再び走っていった。
彦兵衛はさっと刀を収めると、唇を固く結び、壊れた風鈴の欠片を拾い集めた。そしてしっかりと、それを虎太郎の手に押し込んだ。
川の音は聞こえず、時の流れさえも聞こえない。しかし彦兵衛は虎太郎を見ながら、心の中でひしひしと時の流れを感じた。


 「彦兵衛。お前さん、なぜもっと早く俺に言ってくれなかった」
 今日は道場がにぎやかだ。彦兵衛の入れた茶をすすり、一之助が尋ねる。彦兵衛は湯呑みの中の茶を見た。一之助は外の紅に染まり始めた葉を見てい、彦兵衛を見てはいなかった。
「済まぬ。……だが、言ったとてどうにもならぬ。あいつはお前に慈悲をかけられることなど望まなかったろう」
 彦兵衛も茶をすすった。味を感じなかった。二人はしばらくの間何も言わなかったが、やがて一之助がふと口を開いた。
「虎太郎の父親は、確か殺されたのだったな」
「……ああ」
「なかなかの剣客だったが、なんでも少し酒を飲んだ帰り道で辻斬りに遭ったのだとか」
一之助はため息をついた。
 「悪に対する憎しみは、虎太郎が一番よく分かっていたはずだろうに……」
 紅葉が一枚、ふわりと舞い込んだ。そのあと一之助はなぜだ、と二回繰り返した。そしてまた少しの間黙ってから、彦さんと呼んだ。彦兵衛は小さく返事をする。一之助は言った。
「俺はもう一度、笑顔であいつに会いたかったよ」
 風が吹く。彦兵衛の耳の奥に風鈴の音が鳴り響いた。そして、彦兵衛は一之助にも聞こえないほどの小さな声で、ぽつりと一言呟いた。


<作品のテーマ>

前回の『心の時流』の改訂版です。前回よりも詳しく濃く書けているかどうか分かりませんが読んでいただければ嬉しいです。
   投稿者  : 春風
読んでくださった皆様
改行の時に一マス空けるのを忘れているところが多々あります、申し訳ありません。
   投稿日 : 2017/03/18 18:56
   投稿者  : 古事記のリテナ
こんにちは。人物の動きや一つ一つの動作がしっかり描写されていて読みやすく、内容もしっかり理解できました。いい文章の書き方だと思います!一之助の最後の一言が特にしっかり食い込みました。(胸に)
   投稿日 : 2017/04/06 15:48
   投稿者  : 春風
古事記のリテナさん、感想ありがとうございます!
お褒めの言葉をたくさん頂き嬉しいです!
一之助の最後の言葉は締めくくりと余韻を残すように狙って書いたのでそう言って頂けて良かったです、ありがとうございます。
   投稿日 : 2017/04/07 14:12
   投稿者  : てこてこ
改訂前と両方読ませて頂きました。両方とも面白かったです。
比べてみますと、内容は今回の方がぐっと深くなりましたが、文章自体は改訂前の方が読み易い印象がありました。何故なのだろうかと考えてみた所、改訂後は文章に主語が多すぎるのかなぁという所ですかね?
文章ひとつひとつにはっきり主語が書かれているのは分かり易いのですが、説明し過ぎと言えば良いんですかね? 出てくる人数が少ない作品なので、二人の会話でも「虎太郎が彦兵衛に尋ねてくる」「と虎太郎は聞き返す」等、台詞や状況で分かる部分は省いても良いのではと思いました。はっきりとは言えませんが、多分そういった部分が読みにくさの原因かなぁと(曖昧で申し訳ないです;)
後は両作品で気になった所ですが、ひとつめが虎太郎が何故火付けをしたかという所ですね。父親が辻斬りで殺されたのならその復讐に等、何かしらの理由がある方がもっと虎太郎という人物が濃く出せますし、話の流れもスッキリします。
ふたつめが虎太郎の手紙の内容ですね。虎太郎が何を考えているのか、登場人物も読者も分からない状態なので、手紙の内容も何通りか予測立ててしまいます。流れ的には日駒屋の告発なのでしょうが、それだけでも「告発だけなのか」「告発と、自分が何をしてきたかという内容も含まれているのか」「告発と、別れの言葉なのか」等、内容によっては虎太郎に対する印象も変わってくるので、明記して欲しかったと思います。
後は鈴の位置付けですね。後半でとても大切な思い出の品と取れる文章で書かれておりますが、持ってる理由が冒頭で何となく感があるのが勿体ないなぁと思いました。折角でしたら、昔から虎太郎はふらふらどこかへ行って危な気なので、どこに行っても分かる様に彦兵衛と一之助が買ってやったみたいに、三人の大切な思い出に組み込む方が、最後に鈴が出てくる所のシーンでも印象深くなると思います。
この話は虎太郎が大切な鍵だと思うので、彼の周辺をもっと作り上げると良くなると思いました。
長々と失礼しました。個人的な意見なので参考程度にどうぞ。
あ、あと余談ですが、改訂前の方で、時代物ですと侍が自害するなら心臓一突きより切腹が良いなぁと思いました。
切なさが残るとても良い話でした。またこういったのを読んでみたいです^^
   投稿日 : 2017/04/08 14:17
   投稿者  : 春風
てこてこさん、感想ありがとうございます。
主語には全く意識していませんでした、申し訳ありません。確かにあまり「誰々が〜した」と主語を多く使ってしまうと無駄がありますね。そこも気を付けるべきでした。
虎太郎の火付けの原因は最後まで明かされない設定にしようと思っていたのですが、読み返してみるとそれでも説明が足りなかったなと思いました。
3人の決闘の場面に一之助が火付けの原因を虎太郎に尋ねるところを入れるなどすればよかったと反省しました。手紙の内容も同様ですね。気を付けてはいるのですがやはり、いつも説明が足りなくなってしまいます…。
火付けの下手人の告発だけが書いてあることを示すために、一之助が虎太郎からの手紙だと知って喜びそうになるのを入れたのですがやはり足りませんね…。深く入り込みすぎないようにするのと、分かるように説明を入れるという二つのバランスが難しいです。
風鈴は、はっきりと示されていない火付けの原因に繋がるよう「親との思い出」としました。決闘で虎太郎が風鈴を投げる場面から、虎太郎はもう親との思い出を消し去っていることを表したくてあのような形にしました。それが最後の場面の「悪に対する憎しみは虎太郎が一番よく分かっていたはずなのに」とつながるようにと。風鈴を「三人の思い出」とすれば、火付けの原因とは関わりがないので火付けのことがもっとあやふやになると考えました。
でも風鈴の位置付けはとても難しかったです。物語の鍵になるように役割をうまく考えなければならないので。一つ間違うと風鈴がある意味は全くなくなってしまいます。
そして、切なさをうまく表したかったので切なさが残ったと言って頂けて嬉しいです^^ありがとうございます。
てこてこさんも創作頑張ってください!
   投稿日 : 2017/04/08 16:58
   投稿者  : てこてこ
二回目失礼します。
風鈴の位置付けの話ですが、そのまま親との思い出にするのでしたら、やはり冒頭でとても大切にしていたという事を明記される方が良い気がしますね。
冒頭の時点で既に虎太郎が親との思い出を消してしまっているとしましても、彦兵衛に大切にしてるんだなと言わせる等、親との思い出をもっとアプローチする方が、最後に説得力を持たせられると思います。今のままだとちょっと薄いかなという印象なので。また、火付けの原因ですが、最後に辻斬りの話が出ていますので、鈴が無くても「辻斬りで父を殺されたから復讐の為に火付けをした」という予測は簡単に立てられます。なので個人的には鈴自体は火付けの問題と別にしても支障は無いと思います。

私の勝手な妄想話ですが、虎太郎は父を切り殺した不逞浪士にずっと恨みを抱いていて、日駒屋がその浪士の情報を持っていた(父は剣客だったので不逞浪士が自慢していた等、日駒屋は情報を入手していた)
その情報を手に入れるべく、虎太郎は日駒屋との交渉で悪事に手を染める(火付けはその一部で復讐は別で遂げたのでも有りです。侍でしたら自分で復讐相手を斬りに行きたいと思うので)
虎太郎は元々良い奴なので、復讐を遂げ、奉行所にも目をつけられたとなれば、彦兵衛や一之助にけじめをつけて欲しい(殺してほしい)と思います。
なので文を出し、二人に来てもらう様に誘導した。(ここで真相を知らない彦兵衛や一之助がどうして悪に手を染めたのかと問い詰めて、してはいけないと分かっているし二人を裏切ってでも、復讐してやりたかった等理由を明確にすると切ないかなぁなんて)
そして望み通りに殺された。的な事を考えておりました。見当違いなら申し訳ありません(土下座)
そして鈴はその引き立て役かなぁ、なんて思ってました。

考え出すと色んなパターンが出来るので、面白いですが難しいですね…。
何だかかなり一方的な見解になってしまいましたが、こんな解釈もありましたよとさらっと受け取って貰えると嬉しいです。
何度も長々失礼しました。私もぼちぼち何か書こうかと思います、有難うございます^^
   投稿日 : 2017/04/08 20:48
   投稿者  : 春風
てこてこさん、わざわざご返信ありがとうございます。
風鈴の親との思い出は確かに明記しておくべきでした。最初の風鈴について話している場面でもっと書けばよかったです…。虎太郎がすでに思い出を消しているとしてもそれは出来ましたね。
火付けについては最後まで明記しない方向だったので、ご自由に想像をしていただいて構いませんよ!色々なお考えがあって面白いと思います。
ただ火付けは父の敵討ちではなく、あくまで「虎太郎は親を殺され悪事への憎しみを分かっていながらも悪事に手を染めた」ということで、なぜ虎太郎がそのようなことになったのかを読者様のご想像にお任せしようと思いました。風鈴は「虎太郎は親との思い出を消し去っている」ことを強調し読者様のご想像の助けにしたかったのですが、それにはやはり最初の場面で風鈴について書くことが必要でしたね。
色々と内容が薄いところが多いです…。申し訳ありません。     
   投稿日 : 2017/04/08 23:31
   投稿者  : basi
待ってました〜で、一気に読んじゃいました。今回の方が、深みが増したと感じました。
可能であれば、部分的な短編でなく一本の物語としてちゃんと読みたいです。難しい事は分かりませんが、僕は、良い文章って「蕎麦」だと
思います。香りが良く、のど越し良く、スルスルっと自分の中に入ってくる感覚というか感じでしょうか。(言葉が足りずすみません)
春風様の文章には、それを感じさせてくれる物がありまして、次回作が、楽しみです〜(^O^)。
今、刺客請負人を読んでます。できれば、又、時代物をリクエストいたします。m(_ _)m
   投稿日 : 2017/05/02 21:52
   投稿者  : 春風
dasiさん、感想ありがとうございます。
沢山のお褒めの言葉、ありがとうございます!
やはり、短編よりも詳しくしっかりとしたものの方が深みが出るんですよね。私はじっくりと色々なことを盛り込んで書くのが苦手で短い話しか書けず…。もっと練習して書けるようになりたいと思います。
「蕎麦」ですか…!上手い表現で意味もよく分かってとても感心しました!言葉が足りないなんてとんでもないです(>_<)確かにそうですね!
すごく良いお言葉を頂きました、嬉しいです^^ちなみに、私は最近になって蕎麦が食べられるようになりました(笑)色々な美味しい蕎麦に出会ってみたいです。美味しい「小説」の蕎麦にも。
私も時代劇、時代小説が好きなのですが、今は鬼平犯科帳にはまっています。ご存知でしょうか?中村吉右衛門さんが主演のドラマです。
だんだん話がそれてきてしまいました(笑)dasiさんも創作頑張ってください!   
   投稿日 : 2017/05/03 08:55
   投稿者  : basi
春風様。
鬼平とゆうか「池波正太郎」は、激ヤバです〜(OoO)〜。大好きですよ〜。剣客商売と併せて週末、時代劇chにかぶりついてます。(笑い)
殺陣の場面は、劇中のアクションを想像しながら読みましたので、グッときましたよ〜。
本当に、次回作を待ちきれないですよ〜。(><)
自分の地元には、不思議と「蕎麦屋」が多いので、何時か機会がありましたら、ご案内いたします。m(_ _)m
今後とも宜しくお願い致します。
   投稿日 : 2017/05/03 20:56
   投稿者  : 春風
dasiさん、わざわざご返信ありがとうございます。
そうですよねー…(*^^*)内容や表現の仕方ももちろんですが、本の中に出てくる料理もまた美味しそうで良いんですよね〜笑)それがドラマになるとリアルに見られるのでもう「食べたい!」と本当に思います…。
中学3年でこんなことを話せる友達なんて周りにいるわけもなく、いつも家族の中で盛り上がっています。
殺陣の場面は、鬼平の本や立ち回りも参考にして出来るだけリアルに書けるようにしたのでそう言って頂けると嬉しいです^^
でも時代小説は今回が初めてでやはり難しいので、次回も時代小説を投稿できるかどうかは…。ですが、また書こうとは思っています。
蕎麦に関しては素人ですが、面白そうなので色々調べていきたいです!
ありがとうございます。
   投稿日 : 2017/05/03 23:01
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(管理:普津沢)






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