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   『アンドロイドは朝焼け色の夢を見るか?<はつとうこう。>』

         投稿者 : 零


 ひとりぼっちは、つらい。
 ひとりぼっちは、かなしい。
 ひとりぼっちは、さみしい。

これは、そんなに遠くない話。

幸せって、何色なんだろう?
ピンクとか、オレンジとか。そんな暖かい色なんじゃないか。
そんな他愛のないことを考えながら、灰色の小さな影が歩いている。もっとも、その人――ではない。そのロボットの周りには、そのような色を見つけることは出来なかったが。
そもそも、ピンクってどんな色だっけ?
彼の小さなメモリーの中には、少しの記憶しか収まらない。色についてプログラムされたころの其れは薄れ、消えかかっていた。
辺りは、怖いほどの静寂に飲み込まれている。一つだけそれを破るものがあるとすれば、モーターが回る機械音くらいだろうか。足のような形をした金属の棒で地面――というよりは瓦礫の山を踏み越え、のろのろと進んでいく。彼の周りのほぼすべてが、いっそ清々しいほどの灰色だ。もちろん彼自身も含めて。時々白い棒のようなものが転がっているが、それすらも朽ち果てて汚れていた。風が吹くたび、それらが粉になって巻き上げられる。白く霞む視界の先には、尖ったコンクリートの塊が突き立っている。それらは人間がはるか昔に残した、大きな町の残骸だった。それらは、彼の故郷でもある。しかしその場所ですら彼の記憶にはなく、これもまた朽ち果てていた。
やがて彼は、瓦礫がさらに増えて積もっている場所に到着した。ここが彼の目的地だ。
やっとついた。
機械には無い筈の軽やかな足取りで瓦礫の山に向かい、銀色の本体をパカリと開ける。その中から腕のような棒が伸び、ネジやボルトなどの小さな部品をすくう。彼の持つ三本の指でそれを持つのは難しく、ばらばらと下に零れて散らばった。しかし機嫌のいい彼はそれを気にも留めず、傍に置いてあった籠のような物に入れる。何度かそれを繰り返した後、彼はまた籠を引きずり始めた。
同じように灰色の地面を踏みしめ、またえっちらおっちらと進んでいく。やがて、彼はとある廃墟にたどり着いた。
<ただいま>
誰もいない部屋に向かって、挨拶代わりの電子音を鳴らす。人間から言葉を教わらなかった彼は、こうして電子音を鳴らすことしかできない。
引きずってきた籠を部屋の隅に置き、彼はもう一方の隅に移動した。そこには彼が拾ってきた雑多なものが几帳面に並んでいる。豆電球、ライター、ルービックキューブ。もちろん彼には使い方など分からないが、こうして眺めているだけでも良かったのである。人間が残した物を見ていると、同じく人間によってつくられた彼は少し落ち着くのだった。
しばらくそうして棚を眺めていた彼だったが、やがて手足を引っ込めて箱のような形になった。そのまま、一つしかないアイレンズを閉じる。
<おやすみ>
誰もいない空間にもう一度呟き、彼は休止状態に入った。

それから十時間後。彼は目を覚まし、ピコンと明るい電子音とともに手足を出した。厚い雲に覆われ太陽の光も届かないこの場所。しかし彼は24時間を把握しており、夜は休み、日中は活動するようプログラムされていた。彼は確かめるようにアームをぐるっと回し、コンセントに繋がっているプラグを抜く。人間が残したコンピュータが動いているおかげで、こうして電気が通っている場所がまだ残っているのだ。しかしもうじきここも使えなくなってしまうので、また新しいコンセントを探しに行かなければならない。当たり前のことだが、電気がなくなれば、彼も動けなくなってしまうのだ。
しばらくして、彼は廃墟を出た。また、いつものあの場所へ行くつもりである。また面白いものを探すために。人間に打ち捨てられて、どれくらい経ったのだろうか。彼はいつしか孤独に慣れ、こうして新しい楽しみを見出したのである。それでもなお、時々得体のしれない空虚さを感じるのだった。長い年月を経て、彼には機械にはないモノが宿りつつあった。

そんなある日のことである。
いつも通りたからものを探していた彼は、突然固まった。正確に言えば、その視界に入ったものが彼の思考を妨げ、一瞬処理が止まったのである。
 建物の一部だった壁の残骸に、少年がもたれかかっていた。その少年は小さな彼の姿を捉え、そちらへ顔を向ける。
「ん…あれ?」
 そして、言葉を発した。それは疑問の言葉だったのだが、固まっている彼には理解できない。
「君は」
 彼はそこでようやく処理を再開し、少年のもとへゆっくりと近づいた。
「機械か。まだ他にも、生き残っている機体があったんだね」
 少年は穏やかな笑みを見せ、近寄ってくる小さな機械を待つ。そこで、機械はようやく理解した。この生き物は、人間ではない。一瞬人と見紛うほど美しいその少年の身体は、ところどころ壊れて剥がれ落ちていた。その隙間から、歯車やコードが飛び出していたのである。
もったいないな、と機械は思った。
「すごいでしょ。こうなる前は、人間と変わらないくらい綺麗に作ってあったんだ」
 機械の視線を感じ、少年は照れくさそうに微笑んだ。その笑顔は穏やかで、人を安心させるような魅力があった。もっとも、もう癒す相手などいないが。
<あなたはだれ>
 機械は、電子の言葉でそう問いかけた。少年は少し驚き、人間の言葉でこう伝えた。
「僕は―――えっと…レオル、だよ」
 レオル。
 そう答えるまでに間があったのは、久しく名前を呼んでもらっていないせいだった。その間をえっと、という音で埋めるあたり、どうも人間らしい柔軟さのあるアンドロイドである。機械はその答えを受け取り、記憶した。この人の名前は、レオル。機械は自分の姿と彼を見比べ、彼を人間として扱うことに決めたようだ。
「君は?」
 少年は嬉しそうに問い返した。その一方、機械は慣れない質問にまた処理が遅れる。自分の名前を名乗ることなどなかったせいで、少し思い出すのに時間がかかったのである。
<R-125LNY>
とはいえ呼び名などないため、自分の型番を告げた。少年は首を傾げ、機械の言葉を理解する。
「アール、いちにーご…?んー…」
 理解はしたものの、どう呼べばいいのかわからないらしい。少しの間考えた後、閃いたようにポンと手を打った。
「アール、でどう?ちょっと呼びにくいから」
 アール。
機械は反芻し、その名を受け入れた。そのほうが、少年にとっても飲み込みやすいと考えたのである。技術の革新により、機械――もとより、アールのような小さなロボットでも人工知能を搭載するようになった。このレオルというアンドロイドにも、高性能なそれが搭載されているのであろう。ここまで精巧に作られたアンドロイドを見るのは、アールも初めてだった。言動に柔軟さが見られるのも、人間の傍で使われていたからかもしれない。
「そっか。ねぇ、君はどこか行くところがあるの?」
 アールは否定の意を示すため、台形をした体の上半分を左右に回した。人間なら、首を振るような動作である。少年はその意味をくみ取り、少しだけ嬉しそうな顔をした。
「そうなんだ…それならさ、ちょっとお願いがあるんだ」
 少年はアールを抱え上げ、自分の腿に乗せた。そうして目線を合わせ、アールの頭、というより本体の上部をそっと撫でる。久しぶりに感じる「生きた」機械の感触に、少年は懐かしそうな表情を見せた。
「君が良ければ、話し相手になってよ。僕はもう、あまり動けないんだ」
 アールは、少年の脚を見た。
そこは損傷がひどく、もともとは美しかったであろう皮膚が裂け、足首から先は完全に無くなっていた。少年が通ってきたものと思しき道には、ボルトやらナットやらの部品が転がっている。これでは、もうあまり歩けないのにも納得がいった。脚以外にもあちこちに故障があり、透明なオイルが滲んでいる。
「ふふっ、大丈夫。僕は、これくらいじゃ死なないから」
 傷を見つめるアールに、少年はまた微笑みかけた。
だからね、大丈夫だよ。
 もう一度繰り返し、先ほどのように白い手でアールを撫でる。少年は、母のような優しさや穏やかさを持っていた。
「どうかな。引き受けてくれる?」
アールは、今度は肯定の意をこめて音を発した。
<いいよ>
「本当?やったね」
 少年は無邪気に、あは、と笑った。アールはそれを言葉として受け止め、疑問形のように最後の高さを上げた音を鳴らした。
<それはなに?>
「ん?ああ、笑い声だね。別に意味はないんだけど…」
 今度は困ったように、ん?という声を出す。それもアールには馴染みのない音だった。
「あ、これは…ちょっと疑問に思った時に使う声。これにもあんまり意味はないな」
 と言い、またくすっと笑う。少年はいつも笑っているように見えた。
「それで…君はどこに住んでるの?遠いところ?」
 <とおくない。ちかい>
 アールはすぐに伝えた。彼もまた、会話に慣れて楽しくなってきたようである。
「そっか。それじゃ、また会えるね」
 <あなたも、アールのところにきて>
 アールはそう話した。ここにいたら、少年はまた危険な目に遭うかもしれない。人間が過度な自然破壊を繰り返したせいで、酸の雨を降らせる雲が現れることがあった。もしその雨に触れたら、いくらアンドロイドでもただでは済まなかった。ましてや、傷ついた少年の身体など、すぐにでも溶かされかねない。
「え。でも、僕は…」
<きて。ここ、キケン>
戸惑うそぶりを見せる少年に向け、アールは繰り返した。
「キケン…あ、そうか」
 雨のことに、少年は気づいたようだ。細めていた目が、少し大きくなる。アールはその中に、不思議なものを見た。星空だった。深い青色をした空に、光の粒が散らばっている。吸い込まれるように見つめるアールを見て、少年は首を傾げた。
「ああ…目のこと?」
<そら。きれいなそら>
 アールは繰り返した。少年の目の中に、本当に星空があるのだと理解したのである。少年はその意味に気付き、くすっと笑った。星空色の目がまた細くなる。
「綺麗でしょ。本物の空みたいだね」
 それはつまり、本物ではないということでもあった。アールは言った。
<ん?>
 自分の言葉をそっくり真似され、少年はまた短く笑った。本当に、良く笑うアンドロイドである。
「作り物だよ。だってアンドロイドだもん。でもね」
 少年は一息ついて、掠れた声を出した。
「母さんの瞳は、本当にこんな色をしていたよ」
 母さん。アールはそれを母と言い直して記憶する。少年との会話にすっかり慣れた彼は、わからない言葉は知識として吸収しようとしていた。しかし。アールのコンピュータに、また疑問が生まれた。アンドロイドに、母などいるのだろうか。製作者、という意味になるのだろうか。
<かあさん?>
その質問には答えず、少年はゆるゆると首を振った。否定の意を示され、またもやアールが唸る番である。少年はアールを腿から下ろし、そっと地面に置いた。
「それで…アールのところに行けばいいの?」
<そう>
「そっか…ここにいちゃ危ないなら、移動しなくちゃ」
 危ないとは言いながらも、少年の口調には緊張感がなかった。それでも彼は、ゆっくりと壁に預けていた背を起こす。傷にさわるのか、時々顔をしかめた。
<たつ、できる?>
「ん、大丈夫だよ。よ、っと」
 首を振り、伸ばしていたほうの脚を曲げた。そばに落ちている棒に手を伸ばすが、あと少しのところで届かない。
「ごめん。それ、とってくれる?」
 アールは腕を出してそれを掴み、少年に握らせた。
「ありがと」
 身体の反対側にあったもう一本の棒もつかみ、曲げていた脚を伸ばしてふらりと立ち上がる。その動作があまりにも頼りなく、アールは小さな体で脛を支えた。棒は先のとれたシャベルのような不思議な形をしており、少年は尖っていないほうを腋で挟む。恐らくは、これを松葉杖代わりにして歩いてきたのだろう。
「それじゃ、行こうか。僕はゆっくりとしか歩けないから、悪いけど君もそうしてね」
少年はふっと息をつき、二本の杖を前に振って歩き出した。アールは言われた通り、スピードを落として少年の少し前を進む。
今までたった一つしかなかった足音が、二つに増えた。それだけで、アールはふわふわした気分になった。少年の表情も、心なしか生き生きとしているように見える。久しぶりに自分以外の動くものを見つけ、お互いに勇気づけられたのだろう。まるで昔からの友人のように、寄り添って歩いた。

「へぇ…君はここに住んでるんだ」
 それから数十分後。ようやく目的地に到着した少年は、ぐるりと辺りを見回した。とはいえ宝物を並べる棚以外に目立ったものはない、ただの廃墟である。しかし、このようにしっかり部屋としての形が残っている場所は、そう多くはなかった。少年とアールにとっては、貴重な住みかである。
<たつ、つらい。すわる、して>
歩くのが辛そうな少年に、アールは座るよう促した。少年は頷き、部屋の片隅に移動した。初めて会ったときと同じように背中を壁に預け、傷を負っているほうの膝を曲げる。こうしたほうが、彼にとっては楽なようだ。
その状態で、少年はほっと息を吐いた。ここまで歩いてくるだけでも、少年の身体には大きな負荷がかかっていた。
<げんき?>
アールは、それ以外に相手の具合を尋ねる言葉を知らなかった。まるで幼児のような問いかけに、少年は頷いて答える。
「うん。大丈夫だよ」
その答えに、アールは少なからず平静を取り戻したようである。初めて自分に好意を示してくれた少年を失うのは、アールにとっても辛く、避けたいことだったのだ。したがって少年の身体を気遣うのは、アールにしてみれば当然のことだった。
少年はしばらく口をつぐみ、星空の目を閉じた。その動作一つとっても、少年にはどこか人間らしさが漂っている。アンドロイドと人間はもともと共に暮らしてきたが、ある時からはそれぞれに分かれて争うようになった。もともとはアンドロイド側が人間世界を乗っ取ろうと画策したのが始まりらしいが、アールのような低級の機械にはそのような知識はインプットされていない。そのため、人間=敵、というような曖昧な認識だった。それでも彼が少年を受け入れた理由は、少年の姿がとても寂しそうに映ったから、という酷く不明瞭なものだった。
<レオル。いろいろ、きかせて>
 アールはそんな少年のことを、もっとたくさん知りたくなった。少年は目を開け、アールのほうを見た。
「うん、いいよ。どんなことが知りたいの?」
 そしてまた、くすっと笑う。このような表情を見るたび、アールはこの少年がやはり人間なのではないかと錯覚しかけた。
<どこ?きた>
 単語を繋げただけの問いを、少年はどこからきたのか聞かれたのだと解釈した。少し考えて、アールにもわかるよう説明する。
「大きなシェルターだよ。ここからずっと北のほう」
 今から百年と少し前に、人類やアンドロイドは気候をも操作しようとしていた。そのために何十年も研究を続け、ついにそのための装置を完成させたのである。そしてまず、その装置を巡って幾多の国が争い、崩れていった。そんな悲しい歴史を経て、とうとうある国が装置を使って干ばつをなくすことに成功する。それからは、とても順調だった。水不足の地域には雨を降らせ、洪水が起きそうなら雨を降りやませ。まさに、世紀の大発明だった。人間はそうして、神に近づいたような意識すら抱いたのである。
だがそんな驕りに、神は制裁を加えたのだろう。
そんなある日、突然。気象制御システムは、原因不明の暴走を始めたのである。止まない大雨は何日、何か月も続いた。地上は洪水どころの騒ぎではなく、あっという間に主要な都市は壊滅に追い込まれる。人間が無計画な開発を繰り返したせいで、自然が気候を元に戻そうとする自己修復機能までもが奪われていたのである。気象を制御するという原案を出した政治家たちは、滑稽なことに真っ先に逃げだした。「直ちに影響はないようですよ」などという、信じられるはずもない慰めだけを吐き残して。そうしてリーダーに見捨てられた住人は、文字通り右往左往した。そうしてほんの一部の人間は地下に作られたシェルターに逃げ込むことができたが、それ以外は全滅した。これが俗にいう、「テンペスト」という事件の顛末である。
少年は町に住んでいた人々に混じって、なんとかシェルターに逃げ込むことができたのであった。もっとも、本当の苦難はそれからだったのだが。
<ひとりだった?>
「ううん。僕を持ってた家族と一緒だった」
 家族。その言葉を聞いたとき、アールは少年のことを羨ましく思った。人間が地下に隠れるほんの少し前に作られたアールには、家族なんて全く縁のないものなのである。
<いいな>
 無意識のうちに、そんな意味の電子音を発していた。少年は少し驚き、悲しそうな笑みを浮かべる。
「よくないよ」
 それきり、少年は口をつぐんだ。何か触れてはならないところに触れてしまったようで、アールの思考にノイズが走る。
<ごめんなさい>
「ううん。いいんだ」
 少年は表情を元の穏やかな微笑みに戻し、首を振った。
「でもまぁ、今はひとり、か」
<ふたり>
 少年の言葉を、アールが訂正した。自分がいる今、もう少年に寂しい言葉を言わせるのは嫌だった。少年は少しだけ、嬉しそうな表情になった。
「そうだね。アールがいるもんね」
<アールには、レオルがいる>
 ひとりぼっちではなく、ふたりぼっち。でも彼らは、本当に嬉しかった。幸せだった。この世で動いているのが、自分だけではないと分かったから。

その夜、二人は寄り添って眠りについた。正確にはただの休止状態だったが、今の二人にとってはとても穏やかで安らかな時間だった。

「ん…」
 夜の冷気の中、少年はひとりだけ目を覚ました。アールがまだ活動状態に入っていないことを確認し、機体の上部をそっと撫でる。アールは小柄な少年でも抱えられる程度の大きさなので、少年は彼を胸に抱いていた。
「ねぇ…ルナ。今日は…とても、嬉しいことがあったよ」
 数百年前には見えていたはずの月も、今は厚い灰色の雲に覆われて全く見えない。それでも少年は、いつも月の昇っていた場所を今も覚えている。そこに向けて、小さな声で語り続ける。
「ほら、見て。僕のほかにも、生きてるロボットがいたんだ」
 当然ながら、何の声も返ってくることはない。それでも、少年は語り続ける。
「アールっていうんだよ。僕の…友達、だよ。すごいでしょ」
 すごい、でしょ。
 最後のほうは、掠れたような声になっていた。アンドロイドにはあるはずのない、哀しみが滲んでいる。スピーカーの奥で絡まる、何らかの感情が存在した。
「ねぇ…ルナ。そっちには、たくさん友達がいるのかな」
 そっち、とは。いくら賢いアンドロイドだといえども、そういうことはまだわからなかった。否、わからないふりをしたかった。
「アンドロイドは、連れてってもらえないかな。ルナには、また会えたりしないのかな」
 少年の声が、夜の闇に吸い込まれて消える。その余韻にしばらく浸ったのち、少年はため息を一つついた。
「ねぇ…どうして、こんなことに」
 今度は、誰にともなく呟いた。
アールと出会えたのは、少年にとっても幸せなことだった。
しかしなお、自分ひとりを時間の中に置き去りにした人間を恨まずにはいられなかった。
人間は、神になど為れぬ。
そのことを悟っているのがアンドロイドだとは、本当に滑稽な話だった。欲に駆られて身を滅ぼした人間等より、レオルのほうが賢かったのかもしれない。人間が生み出したものは、いつしか人間を超えてしまっていたのだ。少年はただひたすらに、それを恨んでいた。それ以外に、やり場のない感情を向ける先が見つからなかったのだ。
何故、こんなにも愚かだったのか。こんな救いようのない終末を突き付けられるまで、自らの過ちに気付かなかったのか。
そうして逃避を続けた人類は、最後の最後まで醜い争いを続けていた。シェルターの数は少なく、収容できる人数には限りがあったのだ。地上は草木一本育つことも出来ないような環境であったため、地下に備蓄していた食料で食いつなぐしかない。そのため、そこでも椅子取りゲームのような戦いが起こっていた。
少年がいた家族も、そこから逃れる術は持たなかった。



「レオル、助けて」
 少女は、傍らのアンドロイドにしがみついて離れなかった。銃声が絶えないシェルターの片隅で、彼女がすすり泣く声が頼りなく響く。両親ともはぐれ、頼るべき大人もいない二人の姿は、濡れた子犬のように儚く映る。二人はまだ大人と呼べるような年齢ではなかった上、少女は同じ年代の子供と比べても小柄だった。
「大丈夫、大丈夫」
 少年は、ルナという彼女の髪をなでた。潤んだ瞳で見つめるルナに、戦場に似合わぬほど穏やかな笑みを返す。
当然だが、大丈夫なわけがなかった。むしろ、絶体絶命の状況だった。でもこんな時こそ、少年は笑う。笑顔でいれば、きっと大丈夫。そう教えてくれたのは、彼の家族だから。
しかしそんな少年らの思いを嘲笑う様に、戦局は悪化の一方を辿った。家族がいるシェルターの中でも、居場所を確保するための争いが起きている。ルナ達は今まで巻き込まれずに済んでいたのだが、別のシェルターを追われた人々が外から攻撃を仕掛けてきていた。もともと物資が不足していたこの場所は防衛もままならず、数百名いたはずの人間も今となってはその三分の一にまで減っていた。ここが制圧されるのも時間の問題だろう。
「それでもいいさ」
 この戦場には、仁義や人情など無用。少年は、主であるルナを守り抜くことしか考えていない。そのためなら、身の危険だって顧みないつもりであった。プログラム、といえばそれまでである。しかしそれは、彼の意志でもあった。ロボットとは思い難い決意が、その瞳には宿っている。その瞳を閉じ深呼吸をすると、少年は立ち上がった。すぐそばに置いてある銃をとって。
「何をするの?」
 涙で潤んだ目を丸くするルナ。彼女に向かって、少年はまた微笑む。
そして。
 重い銃撃音が耳を劈いた。耳をふさぎ後ろを向くルナを、少年は一瞬だけ悲しそうな目で見る。しかしすぐに表情を引き締め、前方に意識を集中させた。シェルターの末端部であるこの場所にも、侵略者がやってきたようだ。少年のマイクはその足音を拾い、危険を知らせた。
ルナもその音を聞いたようで、不安げなまなざしを少年へ注ぐ。
「味方じゃない」
少年は前を向いたまま返答し、銃を両手で構えなおす。もともと戦闘用の素体だった少年にとっては、銃の扱いなど慣れたものだった。それなりの馬力もあるので、マシンガンやバズーカ砲のようなかなりの重量がある武器でも難なく装備することができる。もっとも長い間戦闘とは縁のない生活を送っていたせいで、少し機能が鈍ってはいたが。
少年のマイクに、カランと何かが転がる音が届いた。反射的にそちらを振り向いた少年の目に、檸檬のような形をした深緑の物体が映る。
「ルナ!」
 慌てて彼女の腕を取り、少年から見て左側へと跳躍した。アンドロイドならではの、角度や力の向きを無視した強引な軌道である。その一瞬後、先ほどまで少女がいた場所でオレンジ色の閃光が炸裂する。避けて居なかったら、今頃彼女は木端微塵だ。
「ぅ、あ…」
 その光景を目にし、ルナは声にならない悲鳴を上げる。彼女をそばにある壁の裏まで連れて行き、少年だけが戻ってきた。その間にも、複数の人影がこちらに迫っている。そいつらに向け、アサルトライフルのトリガーを引いた。十メートルほど先で、正確に狙われた人間が文字通り弾け飛ぶ。どばりと鮮血が溢れ、冷たい床に奇妙な模様を描いた。そんな凄惨な光景を前に、少年のコンピュータにノイズが走る。
その瞬間。
大袈裟な音がして、少年の左肩が弾けた。当然のことだが、相手の姿が見えているということは、こちらも丸見えだということだ。つまりは、少年だって敵の前に無防備な身体を曝しているのだった。しかも今、少年はルナと二人きりである。応援など来るはずもなく、この先は行き止まりだ。少しでも敵の侵入を許せば、ルナは。
絶望的な状況で、少年は戦っていた。
「レオ、ル?」
 ルナはそんな少年を見つめて、唇をわなわなと震わせた。こんなにも冷徹に人を傷つけている彼の姿は、彼女には信じがたいものだったのだ。ルナの知っている少年は、いつも穏やかに笑う優しいアンドロイドだった。今の彼は、そんな様子とはまるで正反対だった。
戦闘に慣れていないルナには、目に映るすべてが恐怖の種だった。少年さえも、その蔦に絡めとられるように思えた。
 そんな中、少年の身体には幾つもの弾丸が突き刺さる。その度に崩れ落ちそうになる身体に鞭打ち、少年は重い凶器を構え続けている。こうしなければ、何も守ることは出来ないのだ。ルナに自分がどう思われようと、少年は無意味な争いを続けるしかない。いつかそれが報われると、根拠が無くとも信じていた。
「レオルっ!」
 ルナは耐えきれず飛び出し、少年の腰に後ろから抱きついた。少年は銃を取り落とし、驚いて後ろを振り向く。不快な音を立て、銃が床に叩きつけられた。
「ルナ!?ダメだ、離れて!」
 すぐに叱責し、ルナの腕から逃れようと身をよじった。こんなところで動きを止めれば、ルナもろとも。屈んだ少年の背中を、鋼の弾丸が容赦なく穿つ。
「もういいよ!もういいから!止めてよ、嫌だ」
 ルナは少年を離さず、悲痛な叫び声をあげた。自分の愛したアンドロイドがこんな争いに参加するなど、彼女には耐えられなかった。少年は頬を張られたように、はっとする。仕方なく、少年はルナを近くの壁の裏側に戻した。自らもそこに屈み、ルナと目線を合わせる。
「ルナ、あのね」
「もういいの…私は、もういいから」
 ルナは顔を手で覆い、溢れる涙を隠す。少年は、星空の目でそれを見つめた。
「ねぇレオル、私たちはなんで戦ってるの…?どうして、傷つかなきゃいけないの?」
 小さな肩を震わせ、絞り出すような声で言う。その問いに、少年は答えることができなかった。その答えは、きっと誰にもわからないのだ。こんな状況で、生きるため、なんて言えなかった。勝っても負けても、死ぬのだ。いくら争いを続けても、そこに居場所などない。足掻いて足掻いて、その先に光明などない。それでも、今は。
「ルナ、聞いて。僕は、君に少しでも長く生きていて欲しい。だから、戦う。相手を殺すためじゃない。大切なものを守るために、戦うよ」
 そう言うと、少年はルナの手を取って立ち上がらせた。ルナはまだ十四歳。そんな年齢の彼女にこんなことを言うのは、少年にしても心苦しかった。
その小さな手を引いて、近くの倉庫へ歩き出す。そこなら、しばらくの間見つからずにいられるかもしれない。一縷の望みを抱いて、ルナをそこの中に入らせた。薄暗い部屋の中に、持っていたランタンを吊るす。頼りない光が、見える範囲を少しだけ広げた。
「レオルも、ほら」
 ルナは少年と一緒だと思っていたらしく、彼の腕を掴む。少年は首を振り、その手を外した。
「僕は行かないと。大丈夫、絶対戻ってくるから。ね?」
 少年は、ルナの目をしっかりと見つめて微笑む。
「え?嫌だよ、レオルもここにいてよ。一人はさみしいよ」
「僕がここを守らなきゃ。また会えるよ。僕らは家族。そうでしょ?」
 私たちは家族だよ。
 それは、ルナがいつも少年に言ってきた言葉だった。ルナが生まれる前から、そこにいた少年。確かに、まるで兄妹のような間柄だった。
「でも!」
 ほら。
 少年は、人差し指をルナの顔に向けた。今では汚れて、ぼろぼろになってしまった指。
これも、二人のつながりを確かめる証だった。初めてルナと少年が出会った時。まだ目も開いていないルナは、彼の指を握ったのだ。それは当たり前の反応だったが、少年のメモリーには強く刻み込まれた。一歳の誕生日も、保育園に初めて行った日も、卒園した日も。小学校に入学した日も、初めて自転車に乗った日も。こうして、ルナは彼の指を握った。
 だから。
ルナは涙目で、その指をそっと握った。少年の無事と、再会を祈って。
少年は頷くと、ゆっくりと戸を閉めた。扉の向こうで、ルナがすすり泣く声が聞こえた。
「さよなら」
 小さく呟き、少年はそっとドアを撫でる。
 そして、背負った銃を、しっかりと。その傷だらけの指で、握りしめた。
少年少女、前を向け。
いつかどこかで聞いた、そんな言葉を思い出して。


「ルナ」
 少年はもう一度、彼女の。あの場所で消えた彼女の名を呼んだ。仕方がなかったのだ、と思いたかった。少年はあの後、深手を負って機能停止した。そして再び目を覚ましたとき、彼女はどこにもいなかったのだ。
「またね」
 そう呟いて、アイレンズを閉じる。この地は荒廃しているが、地下でも紛争とはいい意味でも悪い意味でも縁のない場所と化していた。
人間がいなくなったから、もういいんだ。全部。
もう争いも、略奪も、虐殺も、復讐も起こらない。平和なのだ。人間が求めた平和やら安泰やらは、皮肉なことに人間がいなくなった世界でしか、あり得ないものだったらしい。

<レオル、おはよう>
 アールはきっちり十時間ごとに目を覚ます。彼の下でうとうとしている少年に、電子音のアラームを聞かせた。
「ん!?あ、えっと…おはよう」
少年はびくっと体を震わせ、少しの間をおいて返答した。いきなり大音量が飛び込んできたので驚いたのだが、アールはその理由を解せない。
<ねる、できた?>
「うん。アールは?」
<ぜっこーちょー>
 どこで覚えてきたのだ、そんな言葉。少年はくすりと笑い、頷く。空は相変わらず曇っており、日差しはほとんどない。それでも、少しだけ温度が戻ったような気がした。
目を覚ましたものの、二人にはあまりやることがない。アールは宝物を集めに行くのを止めた。何故なら、友達という何よりも大切な宝物を見つけたからである。少年も少年で、特に目的があってこの場所に来たわけではないのだ。
しかしアールは、もっと少年のことを知りたかった。したがって、二人の時間のほとんどはお互いの会話に費やされることとなったのである。
少年はアールの問いかけに対して、ほとんどの場合よどみなく答えた。彼のメモリーは優秀で、作られた直後の記憶さえも性格に思い出すことができたからである。一方アールは、言葉を使い慣れていないからか会話に詰まることが多かった。しかも単語しか使えないせいで、伝えたいこととは別の意味にとられてしまうこともあった。その度に少年は困り顔で、別の解釈を取り出し確認するのだった。
しかしそれでも、二人は楽しかった。少年は昔の記憶を思い起こすことができたし、アールはたくさんのことを学ぶことができた。日を追うごとにアールは話が上手になり、小学生並みの会話ならできるようになった。
<レオル>
「ん?」
<幸せって、なにいろ?どうおもう>
「僕は」
 その時は、少年は珍しく間を置いた。少しの間顎に手を当て、考えるようなそぶりを見せる。
「朝焼け色、だと思うよ」
朝焼け色。アールにはわからない単語だった。
<なに、それ>
「ええっと…太陽ってわかる?」
<うん>
 該当するデータが存在し、アールは肯定する。今では見られなくなったが、昔はそんな光の塊があったらしい。
「それが、地平線から出てくるときをね。朝焼けっていうんだ。それでね。その空の色を、朝焼けっていうの」
そう、ルナが教えてくれた。
少年は小さく呟き、それきり口をつぐんだ。アールは、その色を思い浮かべてみる。空はまだ暗い。そして太陽が少しずつ顔を出し、オレンジ色の暖かな光が差して。綺麗なグラデーションが、空のキャンパスに描かれる。
うん。
アールは納得し、誰にともなく頷く。それはきっと、そうなんだろう。
幸せは朝焼け色。
アールのメモリーに、新たな記憶が刻まれた。

そんなある日のことである。
<それじゃ、ルナはとってもやさしいひとだったんだね>
「うん。僕も、大好きだったよ」
 こんな内容の会話を繰り広げていると、少年がふとあらぬ方向を見つめた。星空の瞳が大きく見開かれ、そのまま不自然に固まる。
<レオル?どうしたの?>
 問いかけには答えず、少年はその一点を見たまま動かない。まるで彫像にでもなったかのようだ。アールはそんな少年の様子を疑問に思い、再び問いかけた。
<レオル。どうした>
「アール、手足を引っ込めて!」
 少年が唐突に振り向き、アールに向かって緊迫した口調で命じた。突然のことに処理が追いつかないアールに、もう一度険しく命じる。
「早くしろ!」
 今まで見たことのないような態度に戸惑いながらも、アールは命令に従った。少年はそんな彼を抱え上げ、そして。
目を瞑り、部屋の隅へ放り投げた。アールは重たい音を立て、棚の近くに落下する。予期せぬ衝撃に、アールは意味不明の電子音を鳴らした。
<PRYYY!?>
 それを悲鳴だと捉えた少年は、アールに向かって口の動きで伝える。
(ごめんね)
 そしてアールは、少年の表情を見た。
これ以上ないほどに、悲しそうな笑顔だった。蒼い両目からは、今にも涙が零れ落ちそうで。アールの頭脳が、また混乱する。
そんなアールのマイクに、これまで聞いたことのない異音が届いた。飛行機が着陸するときのような、耳鳴りのような音。アールは自動的にマイクのスイッチを切り、その音を遮断する。
一方少年は、その音に聞き覚えがあった。あれは、シャトルが着陸するときの音だ。地上に居場所を無くした人間の中には、宇宙へと逃げ出す者もあった。もちろん膨大な金が必要になるため、そんなことをするものは一握りの富豪か、政治家しかいなかったが。灰色の機体に張り付いて居るロゴから、少年は中にいる人間を後者だと判断する。
轟音とともに着陸したシャトルから、数名の人間が現れた。少年の位置からではあまり見えないが、大柄な男と小さな子供であった。その後ろに、痩せた長身の男がついている。
その中の一人が、少年のいる廃墟のほうへと駆け出した。大柄な男は慌て、その後を追う。少年ははっと身を固くする。
「レオル!」
「…え?」
 聞き覚えのある、という程度ではない。忘れるはずのない声音に、少年は警戒も忘れて顔を上げた。目の前には、少年と同じくらいの背の少女。薄暗がりの中で、彼女の髪がふわりとなびく。その姿を見て、少年は大きく目を見開いた。
「レオルっ」
 次の瞬間、少年は抱きしめられた。柔らかな腕が体を包み、小さな頭が少年の胸に触れる。
その体温と感触から、少年はこの少女の正体を確信する。それと同時に、ぐわんと心を揺さぶるものを感じた。その余波が、彼の瞼を濡らす。自然と、彼女の名前が零れた。
「ル、ナ…ルナ!」
 その名を呼んだ瞬間、目元が熱を帯びた。機械には無い筈の涙がとめどなく溢れ、その体を伝って大地にしみこむ。少年は、ルナを思いっきり抱きしめ返した。冷たい体に、彼女の体温が心地よく溶けていく。
 何故ここにいるのか。どうやって生き残ったのか。
 そんなことはどうでもよかった。知らなくてもよかった。ルナも少年も、とめどなく流れる涙を拭うこともしない。ただ二人は喜び、感情の波に身を任せた。



ぱん、と、乾いた音がした。アールは即座にマイクを元に戻し、横倒しになった少年のほうへと向ける。そのレンズに、衝撃的な光景が映る。
ぱん。
少年の右肩が砕け散った。
ぱん。
続いて、脇腹。少年は衝撃で背中を浮かせ、また壁にぶつける。
ぱん。ぱん。
「…ぐ…ぁ」
 喉を裂かれた少年は、掠れた悲鳴を上げた。アールはあまりのショックに処理が止まり、動くことができなかった。
しかし少年の前に立つ男は、無慈悲に弾丸を撃ち込んでいく。その表情が全く変わらないことが、アールには信じられなかった。アイレンズを大きく見開き、理解できない光景を見つめ続ける。
「ここまですれば大丈夫だろう」
「ああ。俺たちに関する情報をばらまかれたらたまらんからな」
 太った男が、もう一人に声をかける。背の高い男は頷き、返答した。少年やアールは知る由もなかったが、彼らは政治家だった。宇宙へと逃げていた彼らはまた地球へと戻り、生活できるような場所かどうかを視察しに来たのである。しかし少年のように昔のことを知る者がいるのは、彼らにとって不都合だった。また人類が地上に出てきたとき、自分たちがしてきた悪事を言いふらされては困るからである。それ故、彼らは少年を破壊したのだ。
壁に凭れたままの少年は、倒れることも許されなかった。しかしアールは彼に与えられたダメージから、少年はもう動かないのだ、と悟る。
そんな二人、いや一人とガラクタ一つを残し、男達は立ち去った。
<レオル!>
 アールはすぐさま手足を出し、少年のもとまで駆け寄る。転げそうになりながらも、必死に走った。傷だらけになった少年の身体を、伸ばしたアームでそっと撫でる。
<元気?元気?>
 無事なはずはなかった。弾丸は少年の身体を貫き、壁に突き刺さっている。あれだけの距離で放ったのだ。一発も外すことはなく、少年の中枢部分を撃ちぬいている。実際に、少年はもうピクリとも動かなかった。否。
「アー…ル…」
 少年は壊れたスピーカーで、もう聞き取れないような機械音を発した。もうそれは言葉ではなく、ただの金属音にしか聞こえない。アールは驚き、少年を見上げる。まだ生きていると知り、嬉しそうな声をあげた。
「ごめん、ね」
 しかし次の瞬間、アールは気づく。この少年は、もう。
「また…ひとりに、して…ごめ、ん…ね…」
 少年は、わかっていた。自分が、もう動けなくなること。アールが、また一人になること。やっと見つけた宝物を、自らの弱さのせいで失わせてしまうこと。最後の最後まで、少年は他人を気遣っていた。そんな姿を見て、アールも理解した。「ゴメンネ」という言葉の意味を。優しさの意味を。もうそれを向ける相手は、誰一人いないのに。
「あと、あ…」
 とうとう、話も出来なくなる。二人を繋いでいた言葉が、引き裂かれて。淡々と失われていく。少年は。アールは。人間は。世界は。
何をどう間違って、ここまで来たのだろうか。恐らく、誰も悪くはないのだ。誰もが少しずつ間違っていて、少しずつ愚かで、少しずつ冷酷で。それが積み重なって。
今、すべてが弾けて潰れただけだ。
それでも。
「あ…りが、と…」
 ありがとう。そう言おうとしたのだ、と、アールは理解した。それと同時に、少年は。ただの冷たいガラクタになった。

そうだ。夢だったのだ。ルナとまた会えた。あの幸せな記憶は。少年が最後に見た、朝焼け色の幻に過ぎなかった。

これは、夢の話。でも、そんなに遠くない話。


<作品のテーマ>

我ながら非常に驚きました。
ハッピーエンドしか認めない私が書いた小説が、なんでこんな救いようのない結末に!?実はこれ、私の好きな作曲家さんの影響を受けた作品です。
ほとんど読み返さず勢いで書いたのであちこち間違っているかもしれませんが、しばらくしたら改稿版も投稿しようと思っています。
実はこの作品に登場するレオルは、ソラくんの初期設定だったり。ルナちゃんも、カノさんの初期設定です。
こんな未来にならないように、私もちょっと頑張ってみようかな。
   投稿者  : 古事記のリテナ
こんばんは。
お話、拝見しました。お見受けしたところ、零さんはイラストに限らず、言葉としての表現でも「色」を大切にされているんですね!今回のお話でも、灰や朝焼け等から機械達の心情(?)を読み取ることができてスムーズに読めました。 いつか、「黄色」みたいに元気でハッピーなお話も頂きたいです。
   投稿日 : 2017/04/04 23:40
   投稿者  : 
古事記のリテナああああああああ!やっほー!
そうなんよー。色とか音は大好きな表現だからね(笑)別に敬語じゃなくていいんだよー!こんな暗い話書いたことなくってさー。いやぁ、寂しい!結末が寂しい!次は黄色っぽい話も書いてみるよ(笑)( ゚д゚)ハッ!ということは、次の主人公は眼鏡に金髪のアイツか…!
   投稿日 : 2017/04/05 16:54
   投稿者  : ひつじ使い
読ませていただきました。
感情移入して最後まで読むことができました。
せつない物語をここまで書けるなんてすごいですね。
短い感想ではありますが、これからも頑張ってください。
   投稿日 : 2017/04/05 22:16
   投稿者  : 
ひつじ使い様
感想ありがとうございます。機械に感情移入とは…!不思議な話ではありますね。イラストが主なので小説には自信がなかったのですが、褒めていただけて嬉しいです。読んでいただきありがとうございました。ひつじ使い様も創作頑張ってください。
   投稿日 : 2017/04/06 10:53
   投稿者  : 弥生 灯火
たしかにバッドエンドですね。ひつじ使いさんと同様に、切なさや儚さといった印象を持ちました。
それなりに悲しい余韻は残りましたけど、難を言えばそれ以外の読後感を持ちにくい作品だったでしょうか。

と偉そうにコメントしてるものの、私も過去に『吐き捨てたかったモノ』という今作と類似した作品を投稿してたりして(爆)

ではでは、初投稿お疲れさまでした。
   投稿日 : 2017/04/06 22:08
   投稿者  : 
弥生 灯火様
感想ありがとうございます。切ないというのはあまり意識していなかったので、少し驚いています…
読後感ですか。実はこれ、空爆にサリンが使われていたというニュースを見て憤慨して書き上げたものでして。そういう争いの醜さを伝えたかったものではありました。伝わらなかったのは大きな課題ですね…
初投稿見てくださってありがとうございます。これからも精進します…
   投稿日 : 2017/04/07 17:41
   投稿者  : てこてこ
読ませて頂きました。切ない感じの完全なるバッドエンドで面白かったです。
救いの無い話はとことん残酷にしたくなる人なので、少し思った事を挙げさせて頂きます。
ラストでルナに会える夢の部分ですが、多分ルナが生きているかもしれないと思わせるのに、回想シーンでルナの生死をあやふやにされているかと思うのですが、そうしますと読んだ後に「本当にルナは死んだのかな?」と素朴な疑問が残ってしまいます。なので、いっそルナはレオルの前で殺されてしまって、夢の部分では実は生きていたんだという理由をこじつける方が可哀そうな感じが増量するかなと思いました。
または夢ではなくて、レオルをおびき出す為に政治家ががルナを利用していて、もろとも撃ち殺されるかですね。まぁそうしますとアール置いてけぼりな展開になりそうですが;
あと、争いの醜さを伝えたいと仰ってますが、人間の愚かさの様な感じを出すのでしたら、ルナとレオルが再会したシーンを夢ではなく現実のものにして、その後のレオルを撃ったのをルナにすると良いと思います。保身の為にルナはレオルを撃ちますが、その後ルナも政治家に撃ち殺される。結局ルナは利用されただけの形になりますが、人間の醜さを表せますしその後のアールにも繋げ易いと思います。
実際の争いというのは本当に見難いものだと思うので、その点だけを考えますと、零さんの話はまだ綺麗過ぎるかなという印象ですね。
何だかつらつら書いちゃいましたが、参考程度にどうぞ。
世界観もしっかりしていますし、とても読み易かったです。
長々と失礼しました、また違う作品も読んでみたいです。
あ、あとこの話のイラストも見てみたいですなんて←
   投稿日 : 2017/04/08 14:22
   投稿者  : 
てこてこ様
感想ありがとうございます。
新しいアイデアを二つもありがとうございます…!保身の為にレオル君を、の発想は全くなかったです。確かにそのほうがより残酷なエンドになりますね。綺麗なルナさんが(ノД`)・゜・。丁寧な感想ありがとうございます!初めてのバッドエンドで至らないところも多々ありますが、最後まで読んでいただけてありがたいです…!これからもビシバシ感想&ご指摘お願いします!今度はちょっと明るい話を創作中です。イラストは…しばらくお待ちを(笑)読んでいただきありがとうございました!またよろしくお願いします。てこてこ様の新作もお待ちしておりますよ←
   投稿日 : 2017/04/08 15:16
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