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   『変わりゆくもの』

         投稿者 : じんむ


 そこにある風景はいつまでも変わらずに在り続けるのだろう。その言葉の通りでなくとも、小さい頃は誰しも無意識にそんなことを思っていたのではないだろうか。明日もここで遊ぼう、明日もまた来よう。子供は一様にしてそんな事を言う。それは、今いるその場所を限りない普遍の地とし、その風景が明日も在り続けると確信しているからこそ出てくる言葉だ。それ故なのだろうか、大半の人は今在る風景が変わりつつある事になかなか気付く事ができない。いや、気付いていても見て見ぬふりをする。
 僕もその人間の一人だ。
 窓の外では、青々と茂る葉と葉の隙間から我先にと光が溢れ出している。いじらしくも熱狂的でもあるそれは、僕の耳に蝉時雨の音を知らせていた。予報によれば今日の最高気温は三十八度だ。
「朝から暑いねぇ」
 ふと、後ろから声が聞こえたので振り返ると、教室に入って来たばかりなのか、夏花がリボンの傾いたブラウスをつまんで煽いでいた。ぐったりと椅子にもたれかかる姿を見ていると、冷房が効いているはずなのにこちらまで暑くなってくる。
「ほんと、昔はこんな事なかったのに」
「そうだよねぇ」
 僕の言葉に夏花は特に気にした様子もなく返すと机に伏せた。
 このまま寝てしまうのだろうかとため息をつくと、夏花は何か思い出したのか弾かれたかのように顔を上げる。
「昔と言えばタイムカプセル埋めたよね二人で」
 言われて思い出す。確かあれはまだ今日みたいな暑さは無かった夏の日だ。もう十年以上も前になるだろう。小学生に上がりたての頃、当時見ていたアニメのある回で、キャラクター達がタイムカプセルを埋める話をやっていた。それを見た僕と夏花はそれぞれの親に同じ事をしたいと駄々をこね、親の手伝いもあってそれを実現したのだ。遠い昔の記憶なので場所は朧気ではあるものの、確かあれは……。
「川沿いの雑木林」
 僕の声と夏花の声が重なる。
 昔、僕と夏花は二人で色々な所を冒険して遊んでいた。冒険、と言っても小さな歩幅で行ける距離はたかが知れていたのだけれど、その時偶然見つけたのが川沿い(川と言っても農業用水路ではあるが)の雑木林だったのだ。アブラゼミの合唱が鳴り響くその場所は、僕たちにとって自分たちしか知らない秘密の場所だった。確か特別に教えてあげるなんて言ってタイムカプセルを埋める時に親たちを連れて行った覚えがある。
 タイムカプセルを埋めてからも、僕と夏花は何度かそこには通っていた。でもある日僕が蜂に刺されてから親によって行くのを禁止されてしまい、それ以来行っていない。
「ねぇ、次の日曜日行ってみよ。流石にもう行っても大丈夫だと思うし」
 夏花が嬉々としてそんな事を提案してくれる。
 まぁこの歳にまでなって親も止めはしないだろう。



 揺れるアスファルトが憎らしい。せめて雲の一つでも出ていてくれたのならこんなに暑い思いはしなくて済んだだろう。あるいはここまで暑いなら雲が出ても同じかもしれない。
「お待たせ!」
 濃い青空を仰いでいると、夏花が手を振りやってくる。恨めしい夏の景色も、夏花がいるだけで少しは華やかに見えた気がした。
 暑い日差しを受けながら川沿いの雑木林へと足を向ける。
 こうして夏花と歩いていると、昔の記憶が次々と蘇る。そのうち朧気だった川沿いの雑木林の景色も、鮮明な絵として思い出せるようになっていた。
 しかし歩き始めてニ十分くらい経った頃、少しずつ目に見える風景と記憶にある風景の間で齟齬が生じる。確か川沿いの雑木林まではもう少し自然が多かったはずだ。
 それでも歩いていくが、とうとう雑木林にはたどり着けなかった。
「あれ?」
 夏花も同じなのか、不思議そうに呟き立ち止まる。
「ここであってるよね?」
 僕の記憶が正しければ夏花の言っている事も正しいはずだ。しかし目の前にあの時の雑木林は存在せず、土は黒いアス ファルトに、木々は人の住む家に様変わりしていた。
 なるほど、どうやら風景というのは変わるものらしい。よくよく考えれば初めから分かりきっていた事だ。何せ僕の見る風景は既に一度変わっていたのだから。
 しかし、その風景もいずれはまた変わってしまうのだろう。ならばそうなる前に、今の風景をできるだけ長く焼き付けておきたい。
 僕はクマゼミの音に負けないよう声を張り、夏花の名前を呼んだ。


<作品のテーマ>

青春×環境を絡めた作品を書いてみようと書いた作品です。
一応二千文字前後という制限と「ある風景」というテーマ制限の元書いております。
純文学方面のつもりなのですが、いかんせん今までに純文学を一度も書いた事が無いので、色々と教えていただけると幸いです
   投稿者  : 弥生 灯火
うつろい易いものですね。ちょっと見ないだけでも変化してたりすることが多々あります。
私は東京在住なので、作中ほどの時間でなくても、一〜二カ月で変わったりしますもの。

ところで作中で描いてる場所は、田舎なんでしょうか? それとも都会郊外ぐらい?
具体的な描写が少ないので、今ひとつ判別出来なかったのが残念でした。
ほら、場所によって時間の流れ方は異なって感じるじゃないですか。

時間の機微を感じさせるための重要な要素は、今作でいえば二つかと思います。
一つは人物の年齢。こちらはクリアになっているので、あとは環境の提示をもっとしっかりと
描いてあれば良かったなあ。

以上、純文学のことを全然分かってない物書きの感想でした。
これからも執筆頑張って下さい。拙いコメント失礼しました。
   投稿日 : 2017/04/26 01:22
   投稿者  : きらら
夏らしい風景で蝉時雨とか服を扇ぐところかとか、情景描写ができて凄いなあと思いました。
純文学はたしかに難しいですよね。よく知らない私が言うのは失礼かもですが、もう少しラストの家が建ってしまったときの情景、心理描写を書いたほうがいいと思いました。
個人的な意見ですのでどうかご参考までに(>_<)
   投稿日 : 2017/04/26 09:53
   投稿者  : じんむ
弥生 灯火さん

ご感想ありがとうございます!

私の住んでいた場所も気付いたら空き地に建物が立っていたり、林に病院が立ち始めたり、
どんどんと景色は変わっていってしまうので物悲しさがあります;;

さて、場所の描写ですが、これについては完全に失念していた所でありまして、重要な事を気付かせてくださりありがとうございます。
やはり環境という要素は仰せられた通り、時間の機微や捉え方など様々な要因が関わってくるところなので、これを機に
これからは特に気を付けて書いていく所存です。

ためになるお話ありがとうございました<m(__)m>これからも精進していきます。


最後に余談ですが、一応都会郊外辺りを想像していました。
   投稿日 : 2017/04/26 22:02
   投稿者  : じんむ
きららさん

情景描写ができていると言っていただき、今私はディスプレイの前で感激にむせび泣きそうになっております;;


さて、ご感想ありがとうございました!
失礼だなんてとんでもありません。凄く有り難いです<m(__)m>

読み直してみると、仰せられた通り、ラスト当たりの情景と心理描写はあっさりしすぎている節がありますね……(;´・ω・)
もう少し濃密にできればもっと作品にしまりを持たせることができそうです。
一応この文量で1800文字とちょっとだったのであと300文字くらいは猶予がありますからね。

ためになるご意見ありがとうございました<m(__)m>
   投稿日 : 2017/04/26 22:12
   投稿者  : ひつじ使い
読ませていただきました。
文章からゆったりとした、いい雰囲気が出ているように思いました。
個人的には「窓の外では〜」の段落から書きはじめてもいいような気がしました。その上で最初の段落「そこにある風景は〜」において作者さんが言いたかったことを含めて、「結」の部分でさり気なくまとめられていればもっと良くなるように思いました。どういえばいいのでしょうか、最初の段落だけどことなく温度が違うようにも感じました。
全体的に山あり谷ありという感じではありませんでしたが、好きな小説でした。
これからも頑張ってください。
   投稿日 : 2017/04/28 18:39
   投稿者  : 涼格朱銀
 この作品の課題は「ある風景」ですが、この課題の条件を満たそうとすると、読者の印象に残るような風景を描写することと、その風景が作品にとって重要な要素となっていることが必須となるでしょう。
 描写は字数を食う上に、描写している間はストーリーが進行しないことを考えると、2000字という字数制限はかなり厳しいですから、この条件でまともな作品が書くにはかなり単純な内容にするか、構成に工夫が必要になるかと思います。

 では、実際にこの作品が課題に対してどう取り組んでいるかというと、「ある風景」とは雑木林で、子供の頃の思い出が詰まったその場所が、今は無くなってしまった、という喪失感を描くプロットになっています。その環境の変化に地球温暖化を絡めているわけですね。
 このプロットだと、過去と現在の風景を描いて、それを比較する必要があります。またそれは、過去と現在の2シーンを描く必要がある、ということでもあります。2000字しか使えないのに2つの風景描写、2つのシーンが必要になる作品を書くのは、計画段階からかなり無理があるような気がします。この時点でかなり大変なのに、さらに環境問題まで盛り込むのはやりすぎでしょう。環境問題をサブテーマとして盛り込むと説教くさい作品になりがちなので、そうならないようにうまく処理する必要があるのですけど、そんなことまで気を回せる余裕があるのか。

 では、実際この作品では「ある風景」がどう描かれているかというと、何も描かれていません。農業用水路沿いで、アブラゼミが鳴いていたという程度の説明しか書かれていない。また、いろいろ冒険したとか、タイムカプセルを埋めたということは書かれていますけど、具体的なことは書かれていないので、読者は主人公の思い出を共有できていません。
 そのため、いくら「こうして夏花と歩いていると、昔の記憶が次々と蘇る。そのうち朧気だった川沿いの雑木林の景色も、鮮明な絵として思い出せるようになっていた」などと書かれても、読者は何も思い出しませんし(もともと思い出す情報が与えられていませんから)、その風景が無くなったといわれても他人事でしかないわけです。
 肝心の風景は描かれていない一方で、やたらと暑い暑いということだけは繰り返し書かれており、露骨に地球温暖化について何か書きたいらしいのはわかるのですけど、では、環境問題について何が書かれているかというと、それも中身がないんですよね。
 また、メインテーマであるはずの雑木林の話題が出てくるまでに半分近くの字数を使っていますけど、これは無駄遣いしすぎです。

 技術的に評価できる点は、昔はアブラゼミだったのがクマゼミになっているところと、その声(「音」と書いてますけど、「声」の方がいい気がする)に負けないように夏花の名前を叫んだ、という締め方で、これはなかなかいい書き方です。少ない字数で効果的ですからね。ただ、これができる技術があるなら、作品全体に渡ってこのレベルできっちり練り込んで、2000字のスプリントを全力で書き上げて欲しいです。ダラダラと無駄に字数を消費して、最後だけ本気を出しているのは、見ようによってはずいぶん手抜きしているように見えてしまいます。もちろんそうではなくて、小説の構成のコツがわかっていないだけだとはわかりますけど。

 では、前半部を削って、その字数を風景描写に充てればいいのか、というと、そう単純な話でもありません。この作品における風景とは郷愁なのですよね。ただ美しいとか、そういう話ではなくて、風景が幼少期の思い出と結びついているから、主人公にとって大事なわけです。となると、ただ風景を描写するだけではなくて、ひとつひとつの風景が思い出と結びついている必要があります。農業用水路でザリガニを釣ったとか、大きなうろのある木があって、そこを宝の隠し場所にしたとか、木に落書きを彫ったとか。そうした具体的な思い出と結びついた風景が、今になって行ってみたら何も無くなっていた、というから、喪失感があるわけです。
 問題は、本来郷愁というのは時間が醸成するものなのですけど、2000字しかないために、その時間が作れないことです。即席で郷愁を作り出す必要があるわけですけど、下手にやると空々しくなってしまう。いくら懐かしい懐かしいと言われても、こっちにしてみたらさっき知ったばかりの話だしなあ、と思われたらおしまいですから、そこをどれだけうまくごまかせるかが一番の難関でしょう。
 2000字の小説でやることじゃないとも思いますけど、定型詩がもっと厳しい制限下でそれをやってのけていることを考えると、無理ではないのかもしれません。

 純文学についてですが、「文学」というのは言語表現による芸術のことを指し、「文学小説」とは言語表現による芸術性を重視した小説、もしくは文学的価値を認められた小説、ということになります。では、「純文学」とはなんなのか。「純」な「文学」とは何なのでしょうか。
 この「純」は、作品がどういうというよりも、作者の志を指している言葉だと言えます。「純粋に文学を志して書かれた小説」というような意味合いなのですね。つまり、重要なのは志であって、志が純粋でありさえすれば(純粋なように見えさえすれば)、たとえできあがった作品がどうしようもない駄作であっても「純文学」ということになります。
 なので、この作品を純文学風にしたいのであれば、もっと文学に対する熱意を作品に込める必要があるでしょう。文学のために命を削っていますという雰囲気を出せばいいわけです。実際に削るのはやめたほうがいいと思いますけど。
   投稿日 : 2017/04/29 14:33
   投稿者  : てこてこ
読ませて頂きました。
私も小学生の時に埋めたタイムカプセルが見つからなかった人なので、何だか懐かしい感じがしました。
情景描写も丁寧で読み易かったです。ただ、最後だけやけにあっさりしているので、見つけられなかった身としては、もう少し悔しさというか虚しさの様な描写も欲しかったかなぁと思ってしまいました。
私自身純文学をあまり理解していないのであれなんですが(苦笑)全体の空気感がとても良かったです。長々と失礼しました。
   投稿日 : 2017/04/29 22:36
   投稿者  : 涼格朱銀
 机上の論理としてはともかく、実際に2000字でどの程度のことが書けるのか気になったので、試しにほぼ同条件でざっと書いてみました。模範解答どころか反抗期の不良みたいな作品になりましたが、参考までに掲載しておきます。

 制作時間は5時間。字数は2200字。比較しやすいように設定もほぼ同じにしましたが、恋愛要素と環境問題の提起については削っています。
 自分で書いた感想を読み返していて、もっともらしいこと言っているけど、なんか実践的じゃない気がするなあと思ったんですよね。理屈はいいから実際書いてみろよと。

 コンセプトは、普通に短編か中編クラスの作品が始まりそうな程度にゆとりのある書き出しにしておきながら、それをブッた切って終わらせること。いつまでも変わらない日常が延々と続くように見せかけて、それをいきなり終わらせることで、元の作品の冒頭に書かれているようなことを読者に感じさせようということですね。
 かなり意地悪なので、普通はやりたくない手ですけど。

「ある風景」というテーマなら、その風景が読者の印象に残るように描き、また、それが作品の主役にならなければならない、と私は感想の方では言いましたが、ここでは逆に、主題ではない風景や人物の描写を細かめにして、代わりに「ある風景」を描きませんでした。
 テーマに対する返球としては邪道で、評価する相手によっては「ふざけるな」と言われてしまう可能性もありますが、この手のテーマ制限ありの作品を書くのって、コンペティションであることが多いんですよね。であれば、良くも悪くも他の作品より目立った方が有利だと考えました。
 あと、感想の方にも書いた「喪失感」を少ない字数でどうやって出そうと考えたとき、楽な手としてこの手を思いついた、というのもあります。2000字で郷愁は出しにくいので、その代替です。
 もうひとつは、字数を削って無駄なく仕上げるなら、定型詩の方が優れていると私は思うのですよね。小説はぐだぐだと冗長でこそ小説だと思うのです。あえて詩ではなく小説を書くなら、どんなに字数制限が厳しくても、小説らしさは最大限盛り込みたいなあ、と。

 恋愛要素と環境問題は、入れられるなら入れようと思いましたが、うまくいかなくて削りました。
 純文学風にするのも考えたのですけど、何パターンか作風を考えた末に、むしろ安物小説っぽくした方が面白いかと思って、そちらで行くことに。

 恋愛要素を削ったので、夏花を削っても良かったのですけど、あえて残して、むしろ人物造詣を細かくし、会話も増やしてみました。元の人物像とはだいぶ変えてますけど。
 残した理由は、2000字制限でどのくらい人物造詣とぐだぐだした会話に字数をつぎ込めるかを確かめたかったという個人的な理由ですが、それだけだとただの字数の無駄遣いになるので、いちおう効果が出るようには配慮しています。

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 夏休み中になぜか一日だけある登校日に、僕は約一ヶ月ぶりに通っている高校へ行った。うんざりするほど見慣れた校舎や同級生の顔も、しばらくぶりなら懐かしさがこみあげてくるかとも思ったがそんなこともなく、ただ、授業も何もなく、だらだらと教室で過ごして帰るだけ、という点には新鮮さを覚えた。
 何のために登校したのかわからないまま下校の時間になり、僕はいつもの帰り道の農道を歩いていた。
 登校時にはそれほどではなかったものの、真夏の昼となると、日差しが眩しい、というよりは痛い。太陽の居座る空はもちろん、アスファルトも、田んぼも、水路の水面も、雑草の照り返しまでもが目に刺さる。もし学校でサングラスの着用が義務づけられたりしたらどうなるんだろう、などと馬鹿なことを考えながら、僕は目を細め、腕で光をなんとか遮りながら歩く。
 ふと、自分を呼ぶ声がしたような気がした。耳を澄ませようとして、いまさら蝉の声が周囲に溢れていることに気づく。ひっきりなしに鳴りっぱなしなので、いつしか気にもならなくなっていたらしい。が、こうなると鬱陶しい。声を探して辺りを見回してみるが、眩しいせいでそれもままならない。
 空耳だったのかと思い始めたそのとき、背中に重い衝撃が走った。
「覚えてるー?」
 不意打ちを受けてよろめきながら振り返ると、確かに覚えている顔だった。近所の同い年の夏花だ。子供の頃はよく遊んでいたが、中学に上がってからは話しかけることも少なくなっていた。同じ高校に通ってはいるものの、どこのクラスで何をしてしているかなどはもうよく知らない。
「覚えてるよ。夏花だろ?」
「いや、そこ忘れたら困るし」
 夏花は大げさにうなだれてみせた。……しかし、こいつは一体どういう格好をしているのだろう。確かに学校指定の夏服を着てはいたが、スカートの下に学校の青いジャージを履き、腕には自作したらしいリラックマ柄の布のカバーだかなんだかを付けて、頭には黒いレース柄の日よけ帽を被り、なんとか商店と書かれたタオルを垂れ代わりに首の周りを保護している。殺人的な日差しの対策としては理に適っているが、ファッションとしてはまるで統一感がなく、ダサいとかいう以前に、どことなく不安を感じる出で立ちをしていた。そのうえ、肩には学校指定のバッグをかけていたが、それと一緒に年季の入った園芸用のショベルをふたつも担いでいる。
「覚えてるってのは、タイムカプセルだよー。10年前に埋めたやつ」
「は?」
 一瞬、何を言っているのかわからず、僕は間抜けな声をあげた。だが、すぐに心当たりが思い浮かぶ。
「ああ、あれ」
 そういえばそんなものを埋めたことがあったか。通っていた小学校の裏に雑木林があって、昔はそこを二人の「秘密基地」にしてよく遊んだものだった。そこに、どういういきさつだったかは忘れたが、タイムカプセルを埋めようということになった。それで何かのブリキ缶に、駄菓子のオマケとか、未来の僕への手紙とか、そういうのを入れて埋めた覚えがある。
「あれ、ちょうど10年経ったことだし、せっかくだから掘り返しに行かない? ほれ、スコップも持ってきたし」
 夏花は言いながら、肩のショベルを左右に動かしてみせる。
 正直なところ、僕はさっさと帰りたかった。一刻も早く、この眩しい地獄から避難したかった。クーラーの効いた部屋でごろごろしたいというのもあったが、今の僕にとって深刻なのは、熱よりも光だ。
 とはいえ、このためにわざわざショベルまで持参して登校してきた夏花のことを思うと、断り辛い気がした。そういえば、記憶によると雑木林の中は夏でも涼しいくらいだったし、木々が日光を遮ってくれるだろう。懐かしの面子で、懐かしの秘密基地へちょっとした避暑旅行に出かけるというのも悪くないかもしれない。なんとかそう思うことにして、僕は首を縦に振った。
「じゃあ、行こうか」
「行こう行こう」
 そういうわけで僕らは普段の帰り道から外れて、かつて通っていた小学校へと向かった。
「最近はどうしてたの?」
 道すがらに夏花が訊く。
「どうといってもなあ、特に変わったことは」
「うーん。まあ、そうだよねえ。私も特に」
 実際のところは、小学生だった僕らは高校生になり、その間にいろいろ変わったのだろう。しかし改めて訊かれると、報告するようなことは思いつかない。
 農道から小学校へ行くには、ちょっとした土手を上って、川にかかったオンボロ橋を渡る必要がある。川といっても大したものではなく、普段はほとんど干上がっているようなものだ。子供の頃は大冒険のクライマックスとして、この土手と川と橋はあった。当時は高校だとは知らなかった校舎を土手の頂上から遠くに眺めて、悪の秘密結社の基地だとか大魔王の棲む神殿だとか言っていたものだ。今は逆に、土手の橋の先には小学校の校舎が見えることになる。
 記憶よりもずっと低い土手を登り切り、記憶よりも薄汚れてオンボロ感の増した小さな石橋の向こうに見えたのは、真新しい高架橋だった。空と地面を真っ二つに切り裂いて、真っ白く輝くコンクリートの壁が、まっすぐ左右に伸びている。
 小学校はどこにもなかった。雑木林は――あるにはあった。高架橋の下、フェンスで仕切られた先には雑然とした林が一面に広がっている。ただ、そのどこが僕達の「秘密基地」だったのか――今ではもう、全く見当が付かなかった。
   投稿日 : 2017/05/01 22:24
   投稿者  : じんむ
すみません、現在リアルの方でやる事が山積みでこちらの返信ができていない状況です。
詳しく書いていただいたので一言、二言で済ますわけにはいかないので一週間ほどお待ちいただけると幸いです。
大変ご迷惑をおかけしています<m(__)m>
   投稿日 : 2017/05/06 19:12
   投稿者  : じんむ
ひつじ使いさん

応援のお言葉、そしてご感想ありがとうございます!
ゆったりした良い雰囲気とのお言葉、大変うれしく感じております。


さて、温度が違うと言われればなるほど、読み貸せば確かにとってつけた様なと言いますか、前半だけ物語からかい離したような、
そんな印象がありますね。
結で表現できなかったのは私の未熟さが故ですね……精進せねば。

それでも好きな小説と言っていただけたのは感無量と言いますか、ひたすらに感謝の念に堪えません( ;∀;)


最後に改めまして、返信が遅れて申し訳ありません。
ためになるご意見、ありがとうございました<m(__)m>
   投稿日 : 2017/05/12 18:54
   投稿者  : じんむ
てこてこさん

ご感想ありがとうございます!

情景描写についてお言葉に椅子の上で感涙にむせいでおります。
昔から情景描写は決して得意とは言えませんでしたが、そう言っていただけた事で少しだけ自身が付きました<m(__)m>
とは言ってももちろん、ここで停滞するわけではありません。よりよくできるよう精進の限りです。


そして最後のあっさり感は私もけっこう感じおりまして、まだ二百字くらいなら増やせたので文量を費やせばよかったかなと思っていた所です。
やはり人に読ませる場合は心情というのは小説において重要なポイントだと思うので。

最後に改めまして、返信が遅れて申し訳ありませんでした。
ためになるご感想、ありがとうございました<m(__)m>
   投稿日 : 2017/05/12 19:05
   投稿者  : じんむ
涼格朱銀さん

ぎゃー! 
本当に詳しく書いていただき、素晴らしい小説まで提示していただいたにもかかわらず、返信が遅れて申し訳ありませんでした(-_-;)
ですがありがとうございます!

やはり青春と環境、それをしかも二千文字に収めるのは無理があったようですね(-_-;)
これについては他所でも複数ご指摘いただいた事なので、
限られた制限下でどのようなテーマを吟味し、調理できるかという観察眼と言いますか、大いに鍛えなくてはならない点です。

その弊害もあり(もちろん書き手として低レベルという事もありますが)、主人公の記憶、
そして環境やある風景を伝えるにあたって過去との対比が描く事ができず、結果として読者が特に何を思う事ができない独りよがりな
物語になってしまいました。確かこういうのを何小説と言うんでしたっけ……^^;(あまりきれいな言葉ではないので割愛します)

暑い暑いというのもまた露骨と言われて仕方のないほど多いですよね。
これについては唯一主人公の心情とシンクロさせやすい(分かりやすいかはさておき)要素だったので実力が無い私は多用してしまった次第です。
深く反省せねばなりません。
それでまた、ただでさえ少ないにもかかわらずメインテーマまでの字数を無駄にする情けなさも反省しないといけません。

しかしやはりと言いますか、二千文字でこの青春×環境というテーマがそもそもがカテゴリーエラーなんですよね。
多くご指摘いただき身に染みて感じております。
もっとも、実力が伴えばそれも可能だったのかもしれませんが、少なくとも今の私には早すぎました^^;
しかしそれを考えると定型詩を書ける方々って本当にすごいですね……。少ない文字数で大量の情報をつぎ込むなんていうのは
並の実力ではできない気がします。


さて、純文学についても詳しいお話ありがとうございました。
このお話を聞かせていただき、自分の中で純文学というものは何なのかという疑問にそれなりの答えをみいだせました。
確固たる志や信念、考えを文にして読者の心に伝達、それも自らの身体の一部、魂を明け渡すつもりで。きっとそういう作品が純文学なのでしょう。


にしても今回のお話の数々は非常にためになりました。
このご感想で読了前と読了後では何段階もスキルアップできたような、そんな気持ちがします。

最後に改めまして、返信が遅れて申し訳ありませんでした。
ですが非常にためになるお話、ありがとうございました<m(__)m>



追伸

小説読みました!
二千文字でここまでの差、やはり感服と言わざるを得ません。
もし仮にこれから二千文字制約の小説を書く時はこの小説をある種のマニュアルにしていきたいと思います!

わざわざ解を提示していただきありがとうございました<m(__)m>
   投稿日 : 2017/05/12 19:49
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(管理:普津沢)






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